【QUICK Market Eyes 加治屋雄基】オンラインの仮想空間「メタバース」に注目が集まっている。メタバースは解釈が様々で、昨今では自身の分身となるアバターを通じ、実社会と近いレベルでコミュニケーションなどを可能にする仮想空間を指すことが多い。語源は超越を表す「メタ」と宇宙を表す「ユニバース」を組み合わせた造語で、米SF作家のニール・スティーヴンスンが1992年に発表した小説「スノウ・クラッシュ」内で初めて使った言葉だという。
現実と同じような経済活動が?!
近年は仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術が進展し、仮想空間上でも現実に近い形のコミュニケーションが可能になりつつある。さらにブロックチェーンの技術を用いたNFT(非代替性トークン)の普及も進む。従来のデジタルデータは簡単に複製できるなどの弱点もあったが、NFTの活用で唯一性と安全性を備えたデータを持てるようになってきている。将来的にメタバース内でNFTの技術を用いた「デジタル資産」の所有や売買ができるようになり、現実と同じような経済活動が行えるようになるともいわれている。
既にゲームや映画などエンターテインメントの世界ではメタバースの概念を一部再現した作品もあり、例えば任天堂(7974)が2020年に携帯用ゲーム機スイッチで発売した「あつまれ どうぶつの森」もその一種と考えられている。米ゲーム企業はゲーム開発プラットフォームのロブロックス、バトルロイヤルゲーム「フォートナイト」のエピック・ゲームズがメタバース企業として注目を集める。映画では18年公開の「レディプレイヤー1」や「マトリックス」シリーズ、今年7月公開の日本のアニメ映画「竜とそばかすの姫」が仮想空間を題材にしており、これらもメタバースの世界観を表しているといえるだろう。
「メタバースは次の成長市場になる」
直近では米フェイスブックがメタバースを次世代のインターネット空間、SNS(交流サイト)の進化系と捉え、次の成長戦略の柱に据えるとした。同社はメタバース空間の構築に向け、今後1年で100億ドルの投資を実施すると表明したほか、欧州連合(EU)域内では5年で1万人の採用を目指すとしている。メタバース構築に特化した部門として「フェイスブック・リアリティ・ラボ」を新たに発足し、今後は決算で同部門の状況を開示する。
フェイスブックは10月28日、同日付で「メタ」に社名を変更したと発表した。ティッカーシンボルは12月1日付で「FB」から「MVRS」に変更する。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「我々のDNAは人々をつなぐテクノロジーを構築する企業であること。創業時のSNSのようにメタバースは次の成長市場になる」と述べており、同社のメタバース構築に向けた本気度がうかがえる。
メタバース関連銘柄一覧
国内企業もメタバースの市場拡大を見据え、関連事業の強化に乗り出している。直近の発表などを勘案し、関連銘柄を下記にまとめた。
コード | 銘柄名 | 説明 |
2134 | 燦キャピタルマネージメント | 観光名所のメタバース化でVR活用 |
3083 | シーズメン | メタバースファッション事業に参入 |
3632 | グリー | バーチャルライブ配信アプリを展開、8月にメタバース事業参入 |
3903 | gumi | 出資企業がメタバースでのNFT活用で研究 |
3976 | シャノン | 3DCGのバーチャル展示会サービス「ZIKU」を提供 |
4777 | ガーラ | 韓国企業開発の仮想空間内向けでゲーム開発 |
6182 | メタリアル | 旅行や音楽などをVRで体験できるサービスに注力 |
6758 | ソニーグループ | ゲーム事業・VR機器を展開、米エピック・ゲームズに出資 |
6879 | IMAGICA GROUP | VR用いた映像作成などに強み |
7974 | 任天堂 | 「あつまれ どうぶつの森」など仮想空間のヒットゲーム |
8783 | GFA | 寺院のメタバース化に注力 |
9432 | 日本電信電話(NTT) | VRとARを総称したXRコンテンツに注力 |
9433 | KDDI | 仮想都市「au版メタバース」を2022年春に開始 |
アパレルのシーズメン(3083)は22日、クリエイター支援サービスを手掛ける外神田商事(東京都千代田区)との業務提携を通じ、メタバースファッション事業に参入すると発表した。 業務提携に伴い、メタバースファッション専門アパレルブランド「ポリゴンテーラーファブリック」を新設し、メタバース内のアバターの衣料品を普段使いできるファッションとして再デザインし、現実の衣料品として商品化する。現実の衣料品をメタバースのアバター用に変換する新規事業も検討しているという。
モバイルソーシャルゲームなどを運営するグリー(3632)は8月、メタバース事業に参入すると発表した。今後2~3年で100億円規模の事業投資を行い、グローバルで数億ユーザーの獲得を目指すという。子会社のREALITYを通じてスマートフォン向けバーチャルライブ配信アプリを展開してきたが、同社のライブエンターテインメント事業をメタバース事業と再定義し、積極投資を行う。
ゲーム関連ではソニーグループ(6758)にも注目だ。メタバースはVRやAR技術との関係性が強い。ソニーはゲーム事業やVR機器を展開するほか、メタバース構築に注力する米エピック・ゲームズに出資している。
次世代型のインターネット空間と称されるメタバース。フェイスブックだけでなく、アルファベット傘下のグーグル、マイクロソフトなど米IT大手も食指を伸ばしており、メタバース経済圏をめぐって覇権争いが今後加速するかもしれない。
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