北京五輪の開幕でスタートした2月であるが、約2週間の同五輪が閉幕すると、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。本寄稿執筆の2月末の段階でも、ロシアの侵攻は勢いを増している。この地政学リスクの高まりに伴い世界の株式市場は乱高下の状況となっている。
新型コロナウィルスについては、ワクチンの複数回の接種と治療薬の承認が世界各国で進展している。コロナ禍の先行きには明るい見通しが立ってきているように思われるが、ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済の成長の新たな重荷になるのではないか。
世界経済が混迷を極める中、今年のESGの動向を見通す上で、2021年のパフォーマンスを改めて確認してみたい。アラベスクS-Rayのスコアを分析する限り、2021年はESG評価の高い企業の株価のパフォーマンスは良い傾向となった1年であった。
それを裏付けるのは、月末時点の各企業のESGスコアを高いスコアから20%ごとにグループ化する「5分位数分析」という方法だ。ESGスコアの最も高い企業のグループをQ1(最上位20%:Quintile1)、次の20%をQ2、その次をQ3、そしてQ4、最後の20%となる最下位20%をQ5とし、翌月のパフォーマンスを計測している。
つまり、2021年1月の株価パフォーマンスは、2020年12月末のESGスコアによる順位でグループ分けされた企業で計測されており、毎月末に順位をアップデートして翌月のパフォーマンスを計測する方法である。
表1ではS-Rayがスコア対象とする世界の全企業と日本企業で計測した結果である。世界全体では時価総額ウェイト、均等ウェイトのいずれのケースも2021年の年間平均リターンはQ1がQ5を大きく上回る結果となった。日本企業についても、時価総額ウェイトでみるとQ1のパフォーマンスがQ5を大きく上回る結果となった。このように、2021年は世界全体、そして日本においてもESGスコアの高い企業のパフォーマンスが低い企業を上回る1年であったといえる。
S-Ray対象全企業におけるQ1とQ5をもう少し詳しくみていきたい。前述したように、20%毎のグループ化は毎月末実施している。そのため、各グループの企業は毎月変わることになるが、2021年の12月末のパフォーマンス計測に使用した11月末時点のQ1とQ5の企業の構成国をみてみよう。
表2は主要国の企業数であるが、Q1を構成する企業は67カ国・地域1774社、Q5を構成する企業は58カ国・地域1769社から構成されていた。ESGに取り組む企業は既に先進国の基準であるOECD加盟国38カ国以外からも多く出てきている。気候変動に加えて、サプライチェーンにおける人権や労働環境に関心が高まっており、グローバル企業のサプライヤーが多く集まる新興国の企業もESGへの取り組みが進んでいることを示しているのではないだろうか。
表2には掲載していないが、マレーシア(Q1に 92社、Q5に16社)、インド(Q1に 64社、Q5に15社)、そして台湾(Q1に52社、Q5に13社)等は主要国の一部に匹敵する企業数をQ1に送り込んでいる。2022年はESG投資において、一段と新興国の企業に対する関心が高まるのではないか。
また、表2では、米中はQ1よりもQ5の企業数が倍以上に多いことがわかる。中国だけではなく、米国の多くの企業もESGへの取り組みを進めていかなければならないであろう。日、英、独はQ1の企業数がQ5を大きく上回っている。欧州と日本、そしてグローバルなサプライチェーンを担う新興国を軸にESGをさらに推進していってもらいたい。