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自社株買いで株価はどうなる?投資家や企業のメリット・デメリットを解説

記事公開日 2022/5/24 15:00 最終更新日 2024/6/27 10:22 経済・ビジネス コラム・インタビュー 自社株買い 市場用語再点検 金融コラム

自社株買いで株価はどうなる?投資家や企業のメリット・デメリットを解説

(この記事は2022年5月24日に公開したものを再構成しました)

【QUICK Money World 辰巳 華世】企業の自社株買いが注目を集めています。自社株買いは、株主にとって良い材料であり、配当と並ぶ株主還元策の一つです。どうして自社株買いが株主にとって良い材料なのでしょうか?今回はそんな注目の自社株買いとは何なのか、なぜ株主にとって良い材料なのか?自社株買いを行う理由と企業にとってのメリット・デメリット、自社株買いによる株価への影響、株価に影響する?自社株買いの処理方法について説明します。

自社株買いとは

自社株買いとは、上場企業が既に発行している株式を自分の資金を使って買い戻すことを言います。自社株買いは株主にとってポジティブな材料で、配当と並ぶ株主還元策の一つです。株主にとってのメリットを簡単にまとめると以下があります。

  • 1株当たり利益(EPS)の向上による株主還元策の一貫
  • EPS、ROE(自己資本利益率)など財務指標の改善
  • 株価上昇要因

一つずつ内容を見てみましょう。

企業が自社株買いをする目的の一つは、株主に対する利益還元をすることです。企業は取得した自己株式を消却することで発行済株式数を減らすことができます。

自己株式の消却とは、簡単に言うと、自社で買った株を消滅させることであり、発行済株式数の減少に繋がります。企業が取得した自己株式をその後どうするのかについては、後ほど詳しく説明します。

自己株式を消却すると発行済株式数が減少するので一株当たり利益(EPS)や自己資本利益率(ROE)など財務指標が改善します。また、発行済株式数が減少することで、企業の支払い負担が減ることもあり1株当たりの配当金の増加などが期待できます

EPSは純利益÷発行済株式数で算出するので、純利益が変わらず自社株買いで発行済株式数が減少すればEPSは増えます。ROEは、純利益÷自己資本で計算します。自己資本も自社株買い分だけ減るので、ROEが増えることになります。

企業が自己株式の取得を発表すると、取得による短期的な買い需要が見込まれることによる株価上昇だけでなく、本質的にはEPSなど財務指標の改善などによる株価上昇が期待されます

一方で、自社株買いをしたからといって企業が必ずしも自己株を消却するとは限りません。消却をせずに「金庫株」として保管する場合もあります。

基本的に企業の自社株買いの発表は投資家にとってはポジティブな評価となることが多いです。2021年の東京株式市場では、自社株買いが一段と注目されました。これまで一番の買い主体であった日銀の上場投資信託(ETF)の買い入れ額が減少する中、需給面で自社株買いが相場を下支えしてきました。東京証券取引所が発表する投資部門別売買動向(東京・名古屋2市場の1部、2部と新興企業向け市場の合計)のデータ集計によると、企業の自社株買いなどを反映する事業法人は現物株を年間で約1兆5500億円買い越しています。事業法人は5月第4週以降、12月第4週まで31週連続での買い越しでした。

21年度以降、自社株買いの増加を反映して事業法人は買い越しが目立つ

(注)投資部門別売買動向より、事業法人の売買差引額。プラス圏の場合買い越し

自社株買いは、株式市場での買付や東京証券取引所の立会外取引「ToSTNeT(トストネット)」を使う方法があります。

 

自社株買いを行う理由

企業が自社株買いを行う理由はいくつかあります。一つは上記で述べた株主還元です。自社株買いを行い消却することで、会社の発行済株式総数が減少します。この結果、財務指標が改善します。発行済株式数が減るためEPSやROEが高まります。財務指標の改善で株価の上昇も期待できます。

投資指標の一つであるPER(株価収益率)。PER=株価÷EPSで算出されます。株価が変わらず、EPSが上昇すると計算上PERは低下します。PERが下がれば割安の銘柄として注目される可能性があります。ROEの改善も効率的に収益をあげているとの判断から株価上昇に繋がります。

EPS、PER、ROEについての詳細は、以下のリンクで紹介していますので参考にしてみて下さい。

⇒  EPS(一株当たり利益)とは何か 株式投資の基本指標 使い方や計算方法、業績との関係を解説
 ⇒  株価指標「PER」の見方を解説 指標の意味、計算式、PBRとの違いは?銘柄・業種別ランキングも紹介
 ⇒「ROE」とは何か 計算式や意味、目安を紹介 ROAとの違いも解説

また、自社株買いで株価が上昇することで敵対的買収(M&A)から企業を守ることができます。買い戻した自己株式を「金庫株」とした場合には、役員報酬や従業員向けのストックオプションにも活用可能です。

自社株買いを行う企業のメリット・デメリット

メリット

自社株買いによって株価が上昇することは企業にとってもメリットが多いです。株価が高いと敵対的TOB(株式公開買付)対策になります。株高だと株式を取得するのに高額な資金が必要になるため、相手企業からの買収を防ぎやすくなります。敵対的TOBについては、以下のリンクで紹介していますのでご覧下さい。

⇒  TOBとは何か 市場外で買い付け、個人はどこで売る?上場廃止後は強制買取も

また、M&A(合併・買収)の対策にもなります。M&Aには多額のお金が必要ですが、対価としてお金の代わりに自己株式を利用します。M&Aの準備として自己株式を保有し、M&Aの原資として自社株を活用することができます。

デメリット

自社株買いのデメリットは、手元の資金が減ることです。経営上の資金繰りに支障をきたす可能性があります。手元資金を使って自社株を取得するということは、企業の自己資本が減少することになり自己資本比率が悪化します。自己資本比率の低下は企業の安全性への評価が悪化する面もあります。ただ、基本的に自社株買いは、自己資金が潤沢にあり自己資本比率が高い企業が実施するものです。

自己株式を取得し「金庫株」として保有していた場合、その自社株をストックオプションなどで活用する方法もありますが、再び社外へ売却する自己株式の処分もあります。資本提携する特定の第三者などに売却する場合は、株価に大きな影響はありませんが、市場で売却する場合には株価下落要因になります。

 

自社株買いで起こる株価の影響

ここでは自社株買いで起こる株価への良い影響・悪い影響をご紹介します。基本的には自社株買いの発表は株価にポジティブな反応になることが多いですが、時にそうでない場合もあるので注意が必要です。

良い影響

発行済株式数の減少により財務指標が改善します。EPSやROEが向上します。ROEの向上は、「資金を効率よく使い利益を上げることができている」と市場から判断され、株価が上がることに繋がります。

投資指標も改善します。代表的な投資指標の一つであるPERが低くなります。PERが小さくなるとその銘柄が「割安である」と市場から判断され、株価が上がることに繋がります。PBR(株価純資産倍率)も低くなります。市場から「割安である」と判断され、株価が上がることに繋がります。

悪い影響

自社株買いで株価が上がった場合、利益確定のための売りが増えるため、株価が一時的に乱高下することがあります。また、自社株買いは、時に株価の下落に繋がる可能性もあります。本来、企業は事業拡大を目的に株式を発行し資金を調達しています。その資金を事業拡大ではなく自社株買いに充てるということは、「事業拡大の期待があまり持てない」と市場から判断される可能性もあり、そういった判断に繋がった場合は株価が下落する可能性もあります。

株の売買タイミングを自社株買いで判断するには、企業の経営状況やマーケットでの評価など最新の情報をしっかり収集していくことが大切です。「QUICK Money World」では、投資判断に役立つ情報を発信しています。会員登録をすると会員しか得られない情報を取得できます。会員になると以下のような記事が読めます。

<関連記事>
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⇒ その他、最新の自社株買い関連ニュースこちらから

処理次第で株価に影響?自社株買いの処理方法

上記で何回か触れていますが、自社株買いで買った自己株式の処理方法には主に2つあります。一つは、発行済株式数が減少する「消去・消却」、もう一つは第三者や市場で社外に売却する「処分」です。

自己株式の「消去・消却」は自社で買った株を消滅させることであり、発行済株式数の減少に繋がります。方法は株式失効の手続きをする、発行済株式総数の減少による変更登記をするなどがあります。株価が上昇する要因となるため、会社の施策に用いられることもあります。一方で、自社の資本金で消却した場合は資本金が減り、企業規模が縮小する危険があります。

自己株式の「処分」は自社株を社外に売却します。そのため発行済株式数の変化はなく、資本金の額を減らす減資にはなりません。資金調達や企業再編などに用いられます。業務提携先など特定の第三者に売却する場合はそれほど株価に影響はありませんが、市場で売却する場合は株価下落の要因になりやすいです。

まとめ

自社株買いは、株主還元に繋がり株価にとって基本的にはポジティブな反応になることが多いです。企業は敵対的TOB対策やM&A対策などのためにも自社株買いを行います。株式市場で大きな存在感を示している企業の自社株買いの動向に今後も注目していきましょう。

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著者名

QUICK Money World 辰巳 華世

2003年にQUICKに入社後、15年間勤務。約5年にわたり日本経済新聞社、日経QUICKニュース社(NQN)にて記者職に就く。QUICK退社後、フリーランスライターとして2020年より「QUICK Money World」に寄稿。


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