【日経QUICKニュース(NQN) 椎名遥香】15日の国内債券市場は大荒れとなった。日銀は長期金利の操作目標をゼロ%程度とする現行方針に沿って、債券先物と連動性の高い銘柄も指し値オペ(公開市場操作)で買う対応に出た。それでも金融市場で日銀による政策修正の思惑は消えない。日銀が買い入れオペを続ければ債券需給が逼迫して流動性が乏しくなるなどの市場機能の低下を加速させかねない懸念もある。
日銀は15日、2本実施した指し値オペのうちの1本で償還までが7年強である10年物国債356回債の利回りが0.25%となるよう買い入れると通知した。通常の入札方式による買い入れオペでも、356回債を対象に含んだ。早朝に0.3%台で推移していた356回債の利回りはオペ通知で一時0.245%へ低下した。
日銀が7年債利回りの上昇抑制に動いたのは、利回り曲線がいびつになっていたためだ。7~8年債の利回りが10年債を上回る「逆イールド」となっていた。日銀は10年債利回りを連日の指し値オペで0.25%程度に抑えてきたためだ。
356回債は国債先物の売り持ち高を決済する際の受渡適格銘柄のなかで最も価格が安い銘柄で「チーペスト」と呼ばれ、先物相場との連動性が高い。日銀はチーペスト銘柄も指し値オペの対象に加えたことに対し、日経QUICKニュースに「長期国債先物に強い売り圧力がみられるなか、チーペスト銘柄の残存期間である7年ゾーンに(利回り)上昇圧力が生じ、長期金利の変動許容幅の上限を超える恐れがある」ことなど踏まえた措置だと説明した。
債券買いは続かなかった。7年債の利回りはほどなくして、再び新発10年債を上回る0.255%に戻った。オペ通知でいったん買われた債券先物だったが、午後になると急落した。中心限月である9月物は15日15時半から始まった大阪取引所の夜間取引では145円05銭まで下落し、中心限月として2014年5月以来の安値を付けた。
日銀は15時前に16~17日も続けてチーペスト銘柄を対象に指し値オペを実施すると予告した。7年債利回りはきょうの低い水準からは戻したとはいえ、前日と比べれば大きく下回っている(価格は上回っている)。通常なら裁定が働いて7年債と先物相場は動きが連動しやすいはずだ。それでも先物が極端に安い価格まで売られたのは「海外投資家などを中心に政策修正の思惑が根強いことの表れ」(野村証券の中島武信チーフ金利ストラテジスト)という。
日銀の買いでチーペスト銘柄の需給が引き締まると「空売りコストが上昇して現物売り・先物買いによる裁定が働きづらくなる面もある」(東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジスト)。7年債利回りが抑えられて利回り曲線のゆがみは解消されそうだが「先物に買いが入りにくくなり、現物債との乖離(かいり)は目先、続く可能性がある」(国内証券のストラテジスト)とみられる。
日銀は356回債をすでに発行残高の6割強保有しており、オペで買い続けるとますます需給は逼迫する。4月末にはYCC(長短金利操作)の運用を明確化し、連続指し値オペを毎営業日実施すると発表した日銀について東海東京の佐野氏は「この時点で市場の流動性を奪う覚悟はできていたとみられる」と話す。そのうえで「チーペスト銘柄を実勢より低い利回りで買うのは最終手段だと思っていた」という。
日銀の黒田東彦総裁は大規模な金融緩和の継続が必要だとの姿勢を変えていない。YCCの枠組みをすぐに修正するとは考えにくい。日銀は先物への売りが続けば10年債への売り圧力の波及を防ぐため、7年債への買いを続けることになるだろう。力ずくともいえる利回り抑制は流動性がさらに乏しくなって市場機能が低下するという副作用も大きくなりかねない。