【日経QUICKニュース(NQN) 長谷部博史】南アフリカの通貨ランドの下げが一服している。米連邦準備理事会(FRB)の急ピッチな利上げを背景にしたドル高で、対ドルでは7月に2020年9月以来の安値水準となっていた南アランドは持ち直しが鮮明だ。足元で原油価格の高騰が一服し、新興国を悩ませているインフレ圧力が和らぐとの観測もある。来年の米利下げ観測もくすぶり、新興国通貨は底入れしたとの見方が広がりつつある。
■揺れる「ドル1強」
8月に入り、新興国通貨が対ドルで値を戻している。南アランドは7月下旬につけた1ドル=17ランド台前半を底に戻り歩調を強め、10日の外国為替市場では16ランド台半ばで推移。同じ新興国であるブラジルの通貨レアルは9日、1ドル=5.10レアル台を超えて6月中旬以来の高値水準まで戻した。
ランドやレアルといった一部の新興国通貨で下げが一服しているのは「ドル1強」の地盤が揺れているためだ。FRBのパウエル議長は7月、今後の利上げ幅は「データ次第」だと説明し、利上げペースを緩める可能性を示唆。野村証券の中島将行外国為替アナリストは「ドル高がずっと続くものではなく将来の利下げ局面では、米金利の低下が新興国通貨にとって追い風になる」と話す。
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.75%の大幅利上げが続く可能性が高い。それでも米金利先物の値動きから金融政策を予想する「フェドウオッチ」によると、9月に0.75%の利上げを続ける確率は69.5%と既に織り込みが進んでいる。9月のFOMCではメンバーの政策金利見通しもあわせて公表されるため「利上げ幅よりも23年に利下げの可能性が示されるかが新興国通貨にとっては重要となる」(中島氏)。
■通貨防衛の効果
過去最安値圏でくすぶるトルコリラと違って、南アやブラジルの通貨が戻りを試しているのはそれぞれの中央銀行の役割も大きい。インフレ抑制に向けて南アフリカ準備銀行(中銀)は7月、主要政策金利であるレポレートを0.75%引き上げて5.50%とした。利上げは5会合連続で、前回5月(0.50%)よりも利上げ幅を大きくした。
ブラジル中銀も8月に政策金利を0.5%引き上げて13.75%にすると決定。SMBC日興証券の平山広太チーフ新興国エコノミストは「インフレ抑止に向けた中銀の姿勢がしっかりと示されたことは通貨防衛に効果があった」と指摘する。
先進国に比べて経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な新興国は、米国の利上げに伴う資金流出の懸念が常にくすぶる。折しも新興国情勢を巡っては、経済危機に直面するスリランカが国の「破産」を宣言するなど新興国の信頼が揺らいだのも通貨安につながっていた。
ウクライナ危機がさらに緊迫化すれば原油など商品価格が騰勢を強めるリスクもあるが、SMBC日興の平山氏は新興国通貨に関し「7月にナイフは落ちきった」と断言する。南アやブラジルは鉱物資源が豊富で資源国としての側面も持ち、国際商品市況の高騰は経常収支や外貨準備の拡充につながる。ドル1強が本格的に変われば、「落ちるナイフはつかむな」との相場格言に沿って避けていた投資マネーが新興国に流入する期待は高まっている。