【NQNロンドン 菊池亜矢】ドイツの日用品メーカー大手のヘンケル株が軟調に推移している。8月に入りやや持ち直しの動きがみられるものの、1月に付けた年初来高値を2割あまり下回る。原材料価格の上昇が利益を圧迫することに対する投資家の懸念が強まっているためだ。
※ヘンケルの株価
8月15日に発表した2022年1~6月期の売上高は既存事業ベースで前年同期比9%増の109億1300万ユーロだった。自動車や金属加工、エレクトロニクス業界向けに工業用接着剤やシーリング剤を提供する接着技術部門の売り上げが好調だった。半面、経営の指標としている調整後のEBIT(利払い・税引き前利益)は18%減の11億6600万ユーロだった。原材料価格の上昇や物流コストの増加が利益を圧迫した。
売上高営業利益率に相当する調整後のEBIT利益率は10.7%と前年同期(14.4%)から悪化した。売上高の約半分を占める接着技術部門の利益率も13.6%と前年同期(17.3%)から低下した。決算説明会でカーステン・クノーベル最高経営責任者(CEO)は「原材料の価格上昇で、22年12月期通期では20億ユーロのコスト増を見込んでいる」と述べた。
ヘンケルは20年から将来の成長に向けた計画に着手している。7月には日本の資生堂から美容室向けヘアケアなどを手掛けるプロフェッショナルヘアビジネス事業を買収した。1~6月期に複数の非中核事業から撤退したといい、事業ポートフォリオの入れ替えを進めている。さらに、美容ケア部門とランドリー・ホームケア部門を統合し、23年初めまでに新たな事業部門を立ち上げる予定だ。部門統合などによるコスト削減で利益率の改善を狙う動きがうかがえる。
ただ、株式市場ではこうした動きを好感する動きは限られる。主力の接着技術部門では世界的な景気減速の影響で売上数量の減少が鮮明だ。同部門の4~6月期の既存事業の売上高は13.7%増だった。内訳は価格面が14%増だった一方、数量面では0.3%減となり数量が売り上げ増加につながっていない。当面はこうした状況は続くとみられている。
足元では原油価格の下げが一服しているほか、天然ガス価格は記録的な高値圏にある。「全般的なガス不足の可能性は現在の業績見通しに含まれていない」(クノーベルCEO)。極めて不透明感が強いなか、原材料価格の上昇が一段の利益率の低下につながると警戒されやすく、投資家の慎重姿勢は続きそうだ。