【NQNロンドン=菊池亜矢】スイス金融大手のクレディ・スイス・グループ株が大幅安となっている。4日の終値は4.288スイスフランと、22年初から半分以下になった。投資銀行部門の不振が響き、戦略見直しなどに伴う費用負担が経営の重荷になるとの見方が広がっている。世界景気の先行きに不透明感が漂う中で、投資家の慎重姿勢は続きそうだ。
※クレディ・スイスの株価(月足)
クレディ・スイスを巡って前週末から週初にかけて緊張が広がった。経営幹部の従業員向けメモに関する報道をきっかけに、ソーシャルメディア上で様々な臆測が飛び交った。週明け3日の株式市場では株価が一時前週末比12%安い3.518スイスフランに急落。債務不履行(デフォルト)のリスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で5年物の保証料率は同日に3%台に急上昇した。
クレディ・スイスは英金融会社グリーンシル・キャピタルの経営破綻で、運用していた関連ファンドの閉鎖に追い込まれた。米アルケゴス・キャピタル・マネジメントとの取引では巨額の損失を発生させるなど、投資銀行部門の不振が目立つ。
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月、「22年1~6月期に多額の財務損失が明らかとなった結果、財務内容にストレスが生じ、技術投資や事業転換が遅れる可能性があり、22年も業績低迷が続くと予想される」などと指摘。クレディ・スイスの格付けを「Baa1(トリプルBプラスに相当)」から「Baa2(トリプルBに相当)」に1段階引き下げ、格付け見通しを「ネガティブ」とした。
■市場の懸念はやや行き過ぎ
同行が7月発表した4~6月期決算は、最終損益が15億9300万スイスフランの赤字(前年同期は2億5300万スイスフランの黒字)だった。1~3月期から赤字幅を拡大し、赤字は3四半期連続。ロシアのウクライナ侵攻や主要中銀の金融引き締めが投資銀行やウェルス・マネジメントの両部門の収益に響いた。訴訟引当金やコンプライアンス関連費用の増加も重荷だった。
もっとも、財務の健全性を示す自己資本比率のうち普通株式等Tier1(CET1)比率は6月末時点で13.5%と、スイス金融大手UBSグループ(14.2%)やドイツ銀行(13.0%)と同程度。国際的に活動する銀行に求められる8%以上も上回っており、市場の懸念はやや行き過ぎているとの指摘もある。スイス国内の商業銀行部門は好調だ。
それでも、クレディ・スイスが市場から狙い撃ちされるのは厳しい市場環境のなかで、戦略が見えないことがありそうだ。世界的なインフレと急ピッチの金融引き締めで、景気の先行きへの懸念が深まっている。欧州の主要銀行株の値動きを示す「ストックス欧州600銀行株指数」は、4日時点で年初から14%下げるなど、欧州の銀行全体でみても銀行株に明るさはない。
3四半期連続の赤字となったクレディ・スイスは経営陣を刷新しており、今後は事業戦略の見直しを打ち出す。27日には7~9月期決算とともに再建案を公表する予定だ。その具体策が投資家に安心感を与えるものになりうるのかが見通せないだけに、市場の疑念が晴れるにはまだ時間がかかりそうだ。