【日経QUICKニュース(NQN) 寺川秋花】日銀の金融政策修正の観測が後退している。今月27~28日の決定会合だけでなく、その次の6月会合での修正観測も後退しつつある。日銀の新総裁、植田和男氏の10日の就任会見がきっかけだ。このため、長期金利は日銀による上限である「0.5%」に一定の距離を置いた水準となっている。
植田氏は会見で、現行の大規模緩和の柱である長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)とマイナス金利どちらも「継続するのが適当」と強調した。さらに「急に(物価上昇率が)持続的に2%になることに気づいて、急に政策を正常化すると非常に大きな調整が必要になる」としたうえで「なるべく前もって的確に判断をしないといけない」と述べた。
一連の発言から、日銀が動けば強いサプライズ(驚き)を与える今月末の会合での政策修正の可能性はかなり低下した。6月に動くとの観測も弱まりつつある。
最短なら6月とみる三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美氏は「日銀がどうしても6月に動かないといけないわけではない」と話す。海外の金融システムを巡る不安が残り、国内の経済指標の確認も必要とみられるためという。
みずほ証券の丹治倫敦氏は、日銀が4月会合で政策を点検する方針などを示さなければ、修正は当面ないとみている。米国では利上げ停止が近づきつつある。米景気が悪化していけば日本経済にも下押し圧力がかかり「政策修正の必要性は薄れてくる」という。
長期金利は、欧米の金融システム不安が広がった3月には一時0.2%台まで低下した。だが、今月初めに新発債の銘柄が変わると償還期限が3カ月延びて長期金利は一気に0.4%台へ上昇した。それまで新発債だった369回債の需給が日銀の買い入れなどで過度に引き締まっていたため、新発の370回債利回りとの段差が目立った面がある。
政策修正への警戒感が完全に消えたわけではないが、観測は後退しつつある。指標となる新発10年債の銘柄の切り替わりによって日銀が許容する上限の0.5%へ再び近づいた長期金利だが、上限へは一定の距離を保っている。