桜の花とともに日本株ブームが到来しそうな雰囲気が高まってきた。1980年代のJapan as Number oneから1990年代のBashing Japan、2000年代のPassing Japan、2010年代の日本無視(Nothing Japan)を経て、再度日本に世界の熱狂が戻る兆しがある。
新型コロナウイルス(COVID-19)のせいでオリンピックには間に合わなかったが、今年の広島サミットは日本再熱狂の舞台を整えるかもしれない。
千客万来の予兆
千客万来の予兆が諸所に現れている。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領、ショルツ独首相など、日本に距離を置いてきた諸国首脳の来日が相次いでいる。
専制国家と対峙する米国の最有力の同盟国かつ専制国家に国境を接している日本、素材・部品・装置などハイテク工業力・技術力で世界最高峰を維持し世界ハイテクサプライチェーンで不可欠の環を持つ日本、ダイバーシティを標榜するG7で唯一の非白人国でグローバル・サウスとの接点を持つ唯一の先進国日本、極端とも思える平和主義の国、ならず者国家ロシア、中国、イランなどに独自の戦略的互恵関係を維持している日本など、日本の貴重な立ち位置が今ほど世界から必要とされている時はなかった。千客万来の予兆と言える。
お得感満載の日本は、外国人観光客でごった返している。2021年の世界経済フォーラム(WEF)観光開発力ランキングで日本は1位になった。インフラ、文化遺産、豊かな自然と四季などが根拠である。これにおいしい食事(ミシュランランキング入りレストラン数の都市別順位1位東京201店、2位パリ118店、3位京都107店、4位大阪94店、5位香港71店、6位ロンドン70店、7位ニューヨーク65店と圧倒的)、その後の円安による割安さを加えれば日本の観光競争力は圧倒的である。コロナ規制が撤廃される中国人の急増も予想され、2023年には過去ピークの2019年(3189万人)を上回り、いずれ世界最大のフランス(9000万人)に迫っていくだろう。
ハイテク投資の日本ラッシュの兆しも現れている。TSMCの熊本工場第二期、ラピタス千歳工場5兆円プロジェクトに加えて韓国の尹大統領訪日に随行したサムスン、SKハイニックスなど韓国半導体企業も対日投資を検討するとみられる。半導体次世代技術のカギとなる3D化に伴って後工程が重要になるが、TSMCが日本に開発拠点を設けるなど日本が後工程技術のハブになる可能性がある。その他、Open AIの創始者サム・アルトマンがChat GPT発売後初の外遊先として日本を訪れ、岸田首相と面会した。
また日経新聞はデータセンターの処理能力において、現在北京の半分に過ぎない東京での経済安全保障に基づく投資が急増し、3~5年で北京に匹敵するアジア最大レベルに到達すると報じている。いずれも日本リスペクトの高まりを示している。企業の国内投資回帰も目白押しで、京セラ、安川電機、キヤノン、富士フイルム、ローム、ルネサス、日立、パナソニック、資生堂、ユニ・チャーム、ライオン、アイリスオーヤマなど、枚挙にいとまはない。
投資の神様の日本に対するリスペクト
これらの日本リスペクトの高まりは、株式市場では既に織り込み済みである。投資の神様と尊敬されているウォーレン・バフェット氏は2020年に5大商社に投資し、5%の筆頭株主になったが、今年さらに買い増し7.4%を保有した。過去70年間日本を素通りしてきたバフェット氏が日本株のウエイトを米国以外で最大にした。今来日中のバフェット氏は、「今後私は日本の全ての主要企業を観察する」と日本株に関心を示した。そればかりか「投資家というよりもビジネスパートナーとしてやっていきたい」と、伊藤忠会長に語ったという。日本のビジネスモデルと企業そのものに対する最大限の敬意である。
株式市場は日本復活を織り込み済み
世間に日本悲観論、日本卑下論が蔓延(まんえん)しているが、あらゆる事象の再先行指標である株式市場は、10年前に既に織り込み済みである。日本株が最悪であったのは、バフェット氏が注目するよりもはるか前の東日本大震災後の民主党政権下の2012年末であり、以降、日本株は米国に次いで世界最高のパーフォーンスを記録した。2008年のリーマンショック以降、2009年の株価上昇率も、2020年コロナショック直前の2019年末以降の株価上昇率も、主要国では米国に次ぎ二番手のパフォーマンスになっている。バックミラーを見ているメディア、学者・有識者の観測とは裏腹に、株式市場は極めて迅速かつ正確に日本の大転換を織り込んできているのである。
アクティビストの「株価が企業評価の絶対的尺度」に東証と金融庁が同調
「日本が資本主義になる」というコラムが英フィナンシャル・タイムズ紙電子版に掲載された(3月31日)。日本企業が株主価値の最大化に軸足をシフトさせ、株価上昇の期待が高まっているという趣旨である。
「日本企業は(円高デフレという)困難な中で、収益性を高めるという難しいことを成し遂げた。しかし、その利益を株主に還元するという簡単なことに手こずっている。日本企業の多くは、現金の山を抱えたまま、賃上げや自社株買いをほとんど行ってこなかった」が、それが劇的に変わるかもしれないというのである。
その通り、日本企業はもうけをため込み過ぎ、過剰貯蓄による資本効率の悪さが日本株安の原因となってきた。米国株の株価純資産倍率(PBR)が4倍前後へと上昇してきたのに対し、日本企業は1倍前後と世界の中で最低水準で低迷している。アクティビストは日本の株価が割安なのは、経営者が株主の期待に答えていないからだと批判し、数々のTOB(企業買占め)を仕掛けてきた。実際東証上場企業の自己資本比率はほぼ50%と、欧米の平均(30%前後)に比べて5割方高い。この自己資本を自社株買いで株主還元すれば、株主資本利益率(ROE)が急上昇し株価が上がる。それだけで株主価値は大きく高まる。
アクティビスト投資家のエリオット・マネジメントの圧力を受けた大日本印刷やシチズン時計が自大規模な社株買いを発表し、株価は3割以上高騰し、株価純資産倍率(PBR)は0.6倍前後からから0.9倍強へと大きく上昇した。次の自社株買い発表企業はどこかと世界の投資家は色めきだっている。
このアクティビストの「株価を尺度とした企業経営」に東証と金融庁が同調した。東証は資本コストや株価を意識した経営実現の施策を上場企業に求め、PBRが1倍以下の企業に対して是正策を求めた。また鈴木財務大臣兼金融担当大臣は、金融庁が株価評価が低い企業に対し、改善プランを求める方針であることを表明した(4月6日)。
株式市場が資金循環の要にある米国、日本も追随へ
こうして余剰資金を自社株買いに振り向ける機運が急速に高まっている。自社株買いは2021年度8兆円、2022年度は10兆円に上ったとみられるが、2023年には15兆円と飛躍し、最大の日本株買い主体になるかもしれない。米国ではリーマンショック以降の12年間で株価は7倍と急騰したが、この株高を唯一けん引いたのが累計4.5兆ドルに上る企業の自社株買いである。米国企業は利益のすべてを配当と自社株買いで株主還元してきたが、それによる大幅な株価の値上がり益などで米国家計の純財産が90兆ドル(国内総生産・GDP比4倍強)も増え、それが米国の旺盛な消費を支えてきた。日本でも米国のように好循環が起きる可能性が濃厚になってきた。
日本株全員参加型投資ブームの予感
岸田政権の資産所得倍増プランでは、日本版少額投資非課税制度(NISA)の改革で、預金から株式への大きな資金の流れが始まっている。企業の自社株買い、家計の長期積み立て投資、機関投資家の債券から株へのシフトなど、日本人は全員参加型の株式投資に踏み出す前夜にあるといえる。日本株の出来高は、長らく外国人7割、日本人3割と、国内投資家不在の状態が続いてきた。これが変わるとなれば、外国人投資家が色めき立つのも当然であろう。