【日経QUICKニュース(NQN) 椎名遥香】米国債市場で相場が急変動するとの予想が減っている。米金融システム不安の高まりを受けた「質への逃避」に伴う金利低下に、一服感が出ているためだ。今後は信用収縮の度合いや米国のインフレ鈍化のペースなどを慎重に見極める局面になりそうだ。
将来の米国債相場の予想変動率を示す「MOVE指数」(1カ月物)は13日に119.9と2月23日以来の低水準を付け、米中堅銀行シリコンバレーバンク(SVB)が3月10日に経営破綻する前の水準まで落ち着いた。「債券版恐怖指数」とも呼ばれる同指数は、金融システム不安の高まりを背景に3月中旬には198台とリーマン・ショック後の2008年12月以来の高さまで急伸する場面があった。
MOVE指数は米国債の先物オプション市場の取引状況から算出する。数値が高ければ市場参加者の不安心理が強く、先行きの相場変動が大きくなるとみていることを表す。反対に数値の低下は、相場変動が小さくなるとの予想が増えていることを示す。
3月上旬までは、労働需給の逼迫などを材料に、インフレ圧力が根強いとして米利上げが加速するとの議論も浮上していた。そこへ米銀破綻をきっかけにした信用不安の広がりが生じて市場は一転、利上げ打ち止めや利下げを織り込む展開となった。リスク回避目的の債券買いも集まり、3月初旬に4%台を付けた米長期金利は、4月上旬に3.2%台まで低下する場面があった。その後は3%台前半~3%台半ばで一進一退となっている。
米金利先物市場の動向から米金融政策を予測するシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の「Fedウオッチ」をみると、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利上げを決めた後、6月会合は政策金利を5.00~5.25%に据え置き、その後年末に向けて計0.75%の利下げを進めるとの道筋が市場では有力視されている。7月の会合後に現行の政策金利を下回る4.50~4.75%になると予想する確率も1割を超える。
野村証券の小清水直和氏は、インフレ鈍化や景気減速を背景に「年内に利下げに踏み切る可能性はあるものの、7月は早すぎる。利下げの織り込み予想は行き過ぎている」と分析。当面の金利の低下余地はある程度、限られるとの見方を示した。
ダウ・ジョーンズ通信によると、14日発表の3月の米小売売上高は前月比0.5%減少と、2月(0.4%減)から悪化が見込まれる。ただ、米商務省の経済分析局(BEA)が週次で公表するクレジットカードの取引状況を基に推計した消費額は、直近で新型コロナウイルス禍前の水準を上回る様子を示唆する。野村証券の小清水氏は「信用不安が個人消費に与えた影響は一時的だったと考えられ、4月以降は消費関連の指標がいったん持ち直す公算が大きい」とみる。米景気の底堅さを示す指標が続けば、年央までに米長期金利が3%台後半まで上昇する展開もあると予想していた。
SMBC日興証券の奥村任氏も「当面は信用収縮の程度を見極める局面」で一段の米金利の低下余地は乏しくなっているとみる。SVB破綻を受けた市場の動揺がいったんは落ち着き「リスク回避目的の米国債需要が剥落することで、短期的には金利上昇圧力が生じる可能性がある」と話していた。