【NQNロンドン=菊池亜矢】ソフトウエアの独SAPの株価が上昇している。フランクフルト市場では25日に一時123.12ユーロと2022年1月以来1年3カ月ぶりの高値を付けた。企業向けソフトのクラウドへの移行が順調に進んでいることを追い風に、21日発表の決算では売上高が市場予想を上回った。景気が減速する中でも好業績が期待できるとの見方が広がっている。
SAPは企業のビジネスプロセスを管理する統合基幹業務システム(ERP)ソフトの大手。21日に発表した2023年1~3月期決算は売上高が前年同期比10%増の74億4100万ユーロと、QUICK・ファクトセットが集計した市場予想(73億3840万ユーロ程度)を上回った。国際会計基準では営業利益が45%減の8億300万ユーロ。前年の同時期に比べた株価上昇を反映した結果、株式報酬が増えたほか、構造改革関連費用が利益を圧迫した。
もっとも、市場が注目したのはクラウド事業の成長だ。SAPはソフトウエアのクラウドサービスへの事業転換を進めており、その着実な進展ぶりを示した。1~3月期のクラウドの売上高は、為替変動の影響を除いたベースで22%増の31億7800万ユーロ、売上総利益は28%増の22億4000万ユーロだった。全体の売上高に占めるクラウドの割合は43%と前年同期の38%から高まり、クラウドの売上高営業利益率は70.5%と前年同期の68.2%から上昇した。
同社が重要指標とする今後1年間で見込まれる成約済み案件のクラウド売上高は、前年同期比25%増の111億4800万ユーロ。23年12月期通期のクラウド売上高は前期比23~26%増の140億~144億ユーロを見込むが、市場では目標引き上げの可能性があるとの見方が根強い。予想PER(株価収益率)は足元で21倍台と、過去5年平均(20倍台)程度にとどまっている。英HSBCは「クラウド移行を巡る回復が勢いを増しており、堅実な成長が見込める」とみていた。