最近、大手メディアでは、「日本企業のPBR1倍割れ」の文字が躍っています。絵で見ると、【次の図】のようなイメージです。確かに、【紫色】で示す日本株のPBRは、「20年前」と比べても、「10年前のアベノミクス直前」と比べてもほとんど変わらず、「日本株は長期に低迷している」ように見えます。
「審判」と「グラウンド整備員」がシュートを打とうとしている。
そして先日、東京証券取引所は、プライム市場とスタンダード市場に上場する企業を対象に、株価水準を分析して、改善するための具体策を公表するよう要請したそうです。合わせて、金融庁も上場企業に対し、持続的な成長に向けて資本効率の改善を求めるために、コーポレートガバナンス(企業統治)改革を促す新たな行動計画を策定したそうです。
これらの動きをサッカーに例えると、「ストライカー(=株主)が一向にまともなシュートを打たないから(=投資をした企業のリターンを高めようとしないから)、審判(=金融庁)とグラウンド整備員(=東証)が見るに見かねて、ストライカーに代わりシュートを決めよう」としているようなものかもしれません。
言い換えれば、「ストライカーは何をしとんねん!?」となるのかもしれません。
ストライカーはどうしてきたか。
シュートを打たないストライカーは、「仕事をしていない」わけですから、クビになるでしょう。
インデックス・ファンドに代表されるパッシブの投資家は「ほとんど仕事をしている」とは言いがたいと筆者は感じます。彼らも「高いリターンを得るため」に投資をしているはずですが(→そう信じたいですが)、彼らはリターンを高めるための努力をほとんど「他人任せ」にし(→アクティブ投資家が担う)、株主としての権利を部分的にしか使っていないと筆者は感じます。たとえば、「生産性の低い企業に、資本も労働も貼り付けている」ということなのか、日本経済にそうした課題があるとしても、そのために全力を出し切ろうとしているとは筆者は感じません。
あるいは、「ストライカーがシュートしたくないなら、放っておけば良い」となるかもしれません。しかし、審判とグラウンド整備員は「ゲームが盛り上がるかどうか」で生活が決まります(=誰もが同じ日本経済で仕事をしている)。ですから、ストライカーの代わりでも何でも、とにかくシュートを打ってゲームを盛り上げないと「生きていけない」と感じているのでしょう。大手メディアも声を上げるのも同様の理由からでしょう。
では、あらためて、ストライカーとは誰か。それは、投資家ですし、当社も、日本株市場におけるアクティブの投資家です。
では、当社を含む、アクティブの投資家は仕事をしてこなかったのでしょうか。また、日本企業は仕事をしてこなかったのでしょうか。
今回の調査に従うかぎり、筆者は、日本企業も、日本株市場のアクティブの投資家も、どちらも良い仕事をしてきたと考えています。
加えて言えば、大手メディアは、たとえば、「低ROEだから、低リターンである」とか「低リターンだから、低PBRである」といった誤った解釈や印象を抱かせないように、上手にコミュニケーションする必要があると筆者は感じています。
そうした解釈や印象は、投資家を日本株から遠ざけてしまうでしょう。
今回、日本株について調べてわかったこと3つ
(日本株が得意ではなく、当社の日本株運用チームとも一切話さない)筆者が調べてみたところ、次の3つのことがわかりました。
1. 実際には、日本株は米国株よりも、利益を伸ばし、株数を減らしている=日本企業も、投資家も、米国よりも「良い仕事をしている」。
2. 実際には、日本株は、米国株よりも高い投資家リターンを生み出している。
3. 日本株は、現在もお買い得である。
言い換えれば、本エントリーのタイトルに戻って、「日本株PBR1倍割れが誰のせいか」もしくは「日本株低PBRが誰のせいか」と考えると、必ずしも「日本企業や日本株の投資家が仕事をしてこなったから」というわけではなく、「日本株の潜在的な投資家が、日本株の投資収益率の高さに気付いてこなかったため」となるでしょう。
逆に言えば、「人口減少」だとか「低ROE」だとか、そうした(実は)投資家リターンとは必ずしも関係がない理由によって、多くの投資家が日本株から遠ざかっているからこそ、日本株の既存の投資家は、高い投資家リターンを享受できています。
日本株は米国株よりも、利益を伸ばし、株数を減らしており、高い1株利益を生み出している
先に、上記1(=日本企業も、当社を含む投資家も、米国よりも「良い仕事をしている」)について、【次の図】で確認してみましょう。【次の図】は、アベノミクスが始まる前を100として、アベノミクスの10年間における、【左の図】日米株の総利益の変化、【真ん中の図】日米株の株式数の変化、【右の図】日米株の1株利益の変化を、それぞれ見たものです。
すると、【左】日本株の総利益の伸びは米国株を上回っていて、なおかつ、【真ん中】日本株の株式数の減少は米国株よりも大幅である(=株数で考えると、日本株のほうが株主還元に積極的である)、結果として、【右】日本株の1株利益の伸びは、米国株式を上回っていることがわかります。
米国株を上回る結果ですから、日本企業も、日本株市場のアクティブ投資家も、「良い仕事をしてきた」と言って良いでしょう。
合わせて気になるのは、「なぜ、日本株は利益も増え、株式数(≒株主資本)も減ったのに、ROE=利益/株主資本は上昇していないのか」ということです。(この疑問に対する答えは、おそらく次回以降に書くつもりです。)
日本株は米国株よりも、高い投資家リターンを生み出している
あらためて、「今回わかった3つのこと」を再掲します。
1. 実際には、日本株は米国株よりも、利益を伸ばし、株数を減らしている=日本企業も、当社を含む投資家も、米国よりも「良い仕事をしている」。
2. 実際には、日本株は、米国株よりも高い投資家リターンを生み出している。
3. 日本株は、現在もお買い得である。
次に上記2について、重要な点を確認しておきますが、「高ROEだから、高い投資家リターンが出るわけでは決してありません」。逆に、「低ROEだから、低い投資家リターンになるわけでも決してありません」。
実際、【最初の図】で確認したとおり、日本株のROEは、米国株のROEよりも低いわけですが、【次の図】に示すとおり、アベノミクス以降のほとんどの年において、日本株の投資収益率は、米国株の投資収益率を上回っています。投資収益率とは、「1株買ったときに得られる投資家の収益率」=「当年度に生み出された1株利益/前年度末の株価」のことです。
言い換えれば、日本株のほうが米国株に比べて、投資した価格で得られる利益の割合が高いわけですから、本エントリーのタイトルに戻って、➁「低PBRの日本株はダメダメか」を考えると、「日本株は、高い投資家リターンを生み出しており、決してダメダメというわけではない」と考えられます。
このからくりはとてもシンプルです。
当たり前ですが、たとえ高い利益を生み出すとしても、株価が割高であれば、「持ち値」が高いので、支払った値段に対するリターンは低くなります。反対に、株価が割安であり、なおかつ、利益を生み出す力があれば、「持ち値」が低い分、支払った値段に対するリターンは高くなります。
【最初の図】で見たとおり、米国株はこのところ、特に割高だったので、高い投資収益率を生み出すためには、高い期待をさらに上回る利益を出す必要がありました。そして、やはり、その高いハードルを越えられなかったのです。
逆に、日本株は万年割安だったので、ハードルは万年低く、しかも、前節で見たように、(そうした低い期待とは整合性がないような)高い利益の伸びを示したので、その低いハードルを前年よりも広い幅で余裕を持って超えてきていました。
ふつうなら、ジャンパーとハードルの距離が広がれば、ハードルが高くなっていくものですが(=株価やバリュエーションが高くなっていくのですが)、たとえば「あのジャンパーは年を取っている」だとか、「あのジャンパーはシェイプアップしていない」などといった理由で、「余裕を持って飛んでいる」という事実を無視した結果、いまもハードルは上げられていないのです(=いまも日本株は割安なのです)。
実際、【次の図】で見るとおり、前年度末のPBRが高いと【図の右に行くと】、当年度の投資収益率(=1株利益/前値度末の株価)【縦軸の水準】は低くなる傾向があります。
日本株やROEに関する誤解
なんとなく、「高ROEなら高リターン」「低ROEなら低リターン」とイメージしがちで、なおかつ、「高ROEなら高PBR」「低ROEなら低PBR」という関係を「線形」として(1対1のものとして)捉えがちなので、また、大手メディアや評論家もそう触れ回るので、「低PBRなら低リターン」と勘違いしてしまうのです。
考えてみてください。「低PBRはバリュエーションが低いということなのですから、低い投資家の期待を裏切るような利益が出れば、投資家のリターンは高くなります」。逆に、「高PBRはバリュエーションが高いということなのですから、高い投資家の期待を上回るような利益が出なければ、投資家のリターンは高くなりません」。
同様に、「たとえ低ROEでも、バリュエーションが低く、低い投資家の期待を裏切るような高い利益が新たに出れば、投資家のリターンは高くなります」。逆に、「たとえ高ROEでも、バリュエーションが高ければ、高い投資家の期待を上回るような高い利益が新たに出なければ、投資家のリターンは低くなります」。(これらの詳細はおそらく次回以降に書きます。)
今回のまとめ:もう一度確認します。
もう一度確認しましょう
1. 日本企業は高い利益を生み出し、株主還元にも積極的です。
2. そして、高い投資家リターンを生み出してきました。
3. そして、日本株は現在もお買い得です。
とりあえず、この3つのチャートがあれば、日本株に投資をする気になるのではないでしょうか。次回に続きます。
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