【日経QUICKニュース(NQN) 佐藤梨紗】金の価格が過去最高値を視野に入れている。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ打ち止めが意識されており、金利のつかない実物資産として金価格を押し上げている。連動する上場投資信託(ETF)への資金流入が続き、残高は積み上がる。さらに、欧米のヘッジファンドなど投機筋による本格的な買いはこれからとの見方もある。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)では取引の中心である6月物が今月5日、1トロイオンス2061.3ドルまで上昇した。2020年8月の最高値(2089.2ドル)をわずか1.3%下回る水準だ。大阪取引所に上場する円建ての金先物は中心限月の24年4月物が8日に1グラム8870円まで買われ、現物は10日に地金商最大手、田中貴金属工業が発表する小売価格が1グラム9794円といずれも過去最高値を更新した。為替の円安・ドル高基調が、円建て価格をより押し上げている。
ニューヨーク証券取引所(NYSE)アーカに上場する、金価格に連動したETFの代表格「SPDRゴールド・シェア」の裏付けとなる現物の残高は10日時点で938.99トンと22年10月以来の水準となっている。調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は10日に公表したリポートで「4月は欧州を除く全地域でETFへの資金流入がみられ、特に北米ファンドが世界の資金流入をけん引した」と指摘する。
もっとも、金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏は「最高値圏での動きを踏まえると、欧米ヘッジファンドの買いがすでに活発になっているとはいえない」と語る。投機筋の買い余地は残っているといえそうだ。
米商品先物取引委員会(CFTC)の集計では2日時点の投機筋による金先物の買越幅は19万5567枚と、22年5月以来1年ぶりの高水準となった。ニューヨークの金先物が最高値を付けた20年8月時点は22万枚に達していた。
11日発表の4月の米卸売物価指数(PPI)は前月比0.2%上昇と市場予想(0.3%上昇)を下回った。週間の米新規失業保険申請件数は2021年10月以来の高水準となり、米国の景気の先行きには不透明感が漂う。
次回6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBが政策金利を据え置くとの見方は強まり、米長期金利は「上昇に持続性がなくなってきている」(ワカバヤシエフエックスアソシエイツの橋本光正氏)とみる市場参加者は多い。金利が低下に向かえば、金への投資妙味は増す。米国の金融システムを巡る不安や米債務上限問題への警戒感も、リスクを回避したいマネーを安全資産とされる金へ呼び込んでいる。
足元で「(いまは観測にとどまる)FRBの利上げ打ち止めや債務上限問題が現実になれば、今年の夏から秋にかけて金価格は一段高になる」(亀井氏)とのシナリオも浮上している。本格的な金相場の上昇局面はこれからかもしれない。