【NQNロンドン=菊池亜矢】建築資材大手の独ハイデルベルク・マテリアルズ株が好調だ。6月7日に年初来高値を付けた。終値は70.88ユーロと2022年末比で33%上昇し、同期間のドイツ株価指数(DAX)の15%上昇を大きく上回る。堅調な業績と脱炭素化に向けた取り組みの加速を好感した投資家の買いが広がっている。
※ハイデルベルク・マテリアルズ株価とDAXの相対チャート。(2022年末を100として指数化)
同社はセメントや骨材、生コンクリートなどの生産、販売を手掛ける。欧州、北米、アジア太平洋、アフリカなど世界50カ国・地域以上の約3000拠点で事業を展開する。スイスのホルシムやメキシコのセメックスなどセメントメジャーの一角を占める。
足元の業績は堅調だ。23年1~3月期の売上高は48億9600万ユーロと事業構造や為替影響を調整したベースで前年同期比13%増え、EBIT(利払い・税引き前利益)は2億5800万ユーロと3.6倍になった。コスト管理を徹底しつつ、価格の引き上げが利益を押し上げた。23年12月期通期のEBITを25億~26億5000万ユーロと見込み、従来予想(23億5000万~26億5000万ユーロ)から下限を引き上げた。
脱炭素化に積極的に取り組んでいるのも買い手掛かりだ。同社は30年までにセメント1トン当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を1990年比でほぼ半分の400キログラムに削減することを目指している。セメントは製造工程で大量のCO2を排出するだけに、同社への期待は大きく、投資対象としての評価が高まりやすい。
5月にはフライアッシュ(コンクリート製造に用いる灰の一種)リサイクルの最大手、米SEFAグループの買収完了を公表した。4月には産業ガス大手の独リンデと共同出資会社を設立し、大規模なCO2回収・利用施設を建設すると発表した。セメント業界では世界初の大規模施設で、25年にも運用を開始する予定。年間7万トンのCO2が回収できる見通しで、セメント生産から回収したCO2を炭酸水などの食品や化学産業などの原材料として再利用することを見込む。決算説明会では「業界全体の脱炭素化の段階的な変化を実際に推し進めており、進捗は順調だ」(ドミニク・フォン・アフテン最高経営責任者)と自信を示した。
QUICK・ファクトセットによると予想PER(株価収益率)は足元で7倍台と過去5年平均(8倍台)に比べ割安だ。「収益見通しは改善しており、株価は予想される成長をまだ反映しきれていない」(欧州の資産運用会社)との指摘がある。ただ、世界的な利上げに伴う景気減速などで建材需要の鈍化も懸念される。株価の一段高には、好業績の持続を確認する必要がありそうだ。