【日経QUICKニュース(NQN) 阿部美佳】地方債の需給が逼迫している。相対的に高めの利回りを得られるとして地方銀行などが買いに動いている。他方、地方自治体の収入は増えており、地方債発行による資金調達は減る傾向にある。需給が引き締まり、最近の起債では大幅な需要超過となる案件もみられる。
6月に決まった10年物公募地方債の発行条件をみると、国債利回りに対する上乗せ幅(スプレッド)がプラス0.250%という案件が多かった。総じて5月(多くの案件でプラス0.290%)から縮小した。
足元では、需要が発行額を大幅に上回る案件が相次ぐ。兵庫県が8日に条件を決めた2本のグリーンボンド(環境債)でも10年物で発行額150億円に対して7倍、5年物で同110億円に対して3.3倍の需要を集めた。発行額を当初の各100億円程度から積み増したが、それをも上回る需要を集め、表面利率は10年債が0.661%(対国債利回りプラス0.23%)、5年債が0.210%(同プラス0.11%)に決まった。
2日に条件決定した福岡県の10年債は300億円の発行額に対して4.8倍、同じく2日に条件を決めた名古屋市10年債は発行額100億円に対して8.8倍の需要が集まった。ある自治体の担当者は「(今月は)ここ1~2年で経験したことがないくらい強い需要が確認できた」と言及。市場では、とりわけ10年物の地方債が人気との声も聞かれる。
需要が強い背景について、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは、日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)修正観測といった「金融政策への不透明感が残っていることが関係している」と分析する。政策修正により国債の利回りが今より上昇するとの警戒感から、国債よりも利回りが高い地方債に資金を振り向けたいとのニーズが強い。
需要の高まりとは裏腹に、地方債の発行は減少傾向にある。みずほ証券によると、2022年度の公募地方債の発行額は5兆5000億円程度。5年ぶりに前年を下回り、07年度以降の最低水準だったという。新型コロナウイルス禍後の経済再開が本格化するのに伴い地方税や地方交付税による収入が増え、地方債で資金を調達する必要性が低下した。23年度も「全体での発行は少なくなる」(みずほ証券の井上明彦チーフ財投・公的アナリスト)見通しだ。
地方債を十分に確保できていない投資家は、代わりに何を買うのか。三菱モルガンの鶴田氏は「一部の資金は国債に回る可能性がある」とみる。具体的には、生命保険会社や都銀、系統中央などの中央の投資家は国債に資金を回し、地域金融機関は(保有国債の利息と変動金利を交換する)アセットスワップと国債を組み合わせて金利上昇に耐性のある買い方をするのでは、と解説する。
みずほ証の井上氏は債務不履行(デフォルト)リスクの低い債券が代替の運用先となると指摘する。具体的には国債のほか、財投機関債や格付けの高い一部の社債などだ。
需要が強いといっても、財政規律の観点から、地方債はむやみに発行を増やせるものではない。需給の引き締まりが続く中、地方債で吸収しきれなかった資金は、国債や高格付けの債券に分散して向かうことになりそうだ。