テスラ株の勢いが止まらない。9日まで11日続伸、11日間の上昇率は34%に達し時価総額は1940億ドル(約27兆円)増えた。株価は昨年末に比べると2倍だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、個人投資家がテスラ株上昇の波に便乗したと報じた。ヴァンダ・リサーチによると、1週間の個人投資家のテスラ株買い越し額は約14億ドル(約1950億円)と、S&P500種株価指数ETF(上場投資信託)のほぼ倍。人気銘柄のアップルやエヌビディアの買い越し額の4倍以上で、個人投資家のテスラ買いがいかに積極的かがわかる。
テスラ「モデルY」を購入して7カ月。ガラケーからiPhoneに買い替えた際のような衝撃はさすがに失せたが、もうガソリン車に戻ることはないと思う。電気自動車(EV)利用が増えて、最も気になるのは充電。幸い自宅近くにテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」が数カ所あり、アダプターを装着すればEVゴーなどの充電施設も利用できる。他社のEVは充電プラグが異なり「スーパーチャージャー」を使えないので、テスラ車は優位だと思っていた。
9日の米株式市場でテスラの充電施設の優位性が材料になった。先月のフォード・モーターに続き、ゼネラル・モーターズ(GM)が全米で1万2000基を展開する「スーパーチャージャー」に自社のEVを適応させる方針を発表した。ブルームバーグ通信は、テスラがEV充電の業界標準になるとみられると解説。競合他社はCCSと呼ばれる従来規格を捨て、テスラのシステムを使用したネットワーク構築に圧力がかかるとしている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国の充電器をめぐる戦いでテスラが勝利したと報じた。ビデオテープ(VHSとベータマックス)やビクトリア朝時代の英国の鉄道路線幅のような2つの規格争いで、テスラの充電器設置数の多さや充電の安定で勝利が決定的になったとしている。ブルームバーグ通信によると、パイパー・サンドラーのアナリストは、テスラ車以外のEV充電だけでテスラの売上高は2030年までに30億ドル超、32年までに54億ドル増加すると試算した。
充電器以外の材料もテスラ株を押し上げた。米財務省が6日更新したEV促進を目指した税額控除対象リストで、テスラの「モデル3」全種が最高額7500ドル(約105万円)の対象になった。それまでは一部の税額控除額が3500ドルだった。人工知能(AI)をめぐる投資家の注目もテスラに追い風となった。生成AIに熱狂、テスラを含む大型テクノロジー株が積極的に変われた。ナスダック総合株価指数は7週連続で上昇、週間ベースの上昇としては2019年末以降で最長になった。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、テスラをはじめハイテク株の上昇でS&P500が8日に新たなブル(強気)相場入りしたと報じた。
フォーブス誌は、テスラ創業者のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が再び世界の長者番付トップになったと伝えた。テスラ株が下落した1月初旬に資産額は1400億ドルを割ったが、2290億ドル(約31兆9000億円)と70%近く増えたとしている。ブルームバーグ通信のビリオネア指数でもマスク氏が首位。ハイテク株の上昇を反映して2位の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのアルノー会長と6位のウォーレン・バフェット氏を除くとトップ10を米国のテクノロジー企業創業者が占めた。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。