「景気がさらに悪くなった」。1カ月に1度の散髪の日に美容師はつぶやいた。客が大幅に減ったらしい。同僚の美容師も。ロサンゼルス市内のスーパーでレジ前の行列はない。散歩の途中にあるイタリアン・レストランは週末もガラガラ。サンタモニカのショッピング通り「プロムナード」は空き店舗がさらに増えた。
20日に発表された米小売り大手ウォルマートの通期利益見通しはアナリスト予想を下回り、株価は急落した。21日発表のミシガン大学の2月消費者信頼感指数の確報値は15カ月ぶり低水準。1年先のインフレ期待は4.3%と、2023年11月以来の高水準だった。S&Pグローバルの2月の米サービス業購買担当者景気指数(PMI)は景気拡大と縮小の分岐点となる50を約2年ぶりに下回った。経済指標が経済減速を示唆した。
投資家は米経済減速とインフレ高止まりを懸念。ダウ工業株30種平均は21日までの2日間で約1200ドル下落。週明け24日は反発したものの、33ドル戻しただけだ。S&P500種株価指数とナスダック総合指数は続落した。ゴールドマン・サックスのストラテジストは、20日付の顧客レポートで、個人投資家と機関投資家の買いが失速していると指摘、相場転換の可能性を警告したとブルームバーグ通信が伝えた。CNBCによると、資産家スティーブ・コーエン氏は「著しい調整があっても驚かない」とマイアミのイベントで警鐘を鳴らした。コーエン氏は、トランプ米大統領のアグレッシブな貿易政策がインフレ押上げと個人消費押し下げ圧力になると懸念を表明。市場リスクの高まりを指摘する専門家は少なくない。
就任1カ月のタイミングで実施された5社の世論調査は、エコノミスト誌・ユーガブを除きトランプ氏不支持が支持を上回った。NBCニュースがまとめた5社平均は、支持46%に対し不支持50%。経済政策を支持したのは44%にとどまり、49%が不満を表明。第1次トランプ政権の経済政策の支持率は平均49%だった。トランプ氏の支持率が下がった最大要因は経済問題だとNBCは分析した。
著名投資家ウォーレン・バフェット氏の率いるバークシャー・ハザウェイは株式保有を減らし、現金を増やした。2024年末の現金と米短期債を合計した手元資金は3342億ドル(約50兆4300億円)。1年でほぼ倍増し過去最高額。バフェット氏は22日付の「株主への手紙」で、「現金ポジションが異常と一部で評されているが、資金の大部分は株式だ」と主張。フィナンシャル・タイムズは、バフェット氏が記録的な現金保有で株主の安心感を模索したと報じた。ウォール・ストリート・ジャーナルも、バフェット氏は巨額現金を擁護したと伝えた。バフェット氏は日本の5大商社の保有比率を引き上げる可能性を示唆したことが注目された。
トランプ氏は予測不能。関税の全体像はまだみえない。マスク氏の率いる政府効率化省(DOGE)は財政支出削減を加速。トランプ外交は世界の秩序を変えつつあり、地政学リスクが高まる。投資家は不透明感を嫌う。「トランプ経済」への投資で迷っているようにもみえる。米経済減速への警戒も加わり、幅広い金融市場のボラティリティーは高まるかもしれない。JPモルガンのウェルスマネジメント部門のストラテジストは21日付のメモで、「恋愛と金融はどちらも山あり谷あり。投資家は分散した投資ポートフォリオを維持すべき」とコメントした。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。