【日経QUICKニュース(NQN) 阿部美佳】このところの株高が、年金基金などによる円債買いを後押ししている。日本証券業協会によると5月、年金基金の売買動向を映すとされる信託銀行による公社債の買越額は2兆8852億円だった。株高に伴うリバランス(資産配分の見直し)で資金が超長期国債などに向かい、信託銀行による国内債の買越額は2013年3月以来の大きさに膨らんだ。
日証協が20日発表した5月の投資家別売買動向(短期証券を除く)で年金基金の売買動向を映すとされる信託銀行の買越額は、QUICKでデータを遡ることができる1998年以降で13年3月に次ぐ2番目の大きさとなった。春以降の日本株相場の急上昇で、信託銀行では保有株式の評価額が増大。保有資産に占める株式や債券などの比率を一定に保つため、国債買いが進んだとみられる。
なかでも超長期国債の買越額は1兆2691億円と4月の売り越しから一転、2022年度の月平均(単純平均で1カ月当たり1867億円の買い越し)を大幅に上回る水準だった。バークレイズ証券の海老原慎司氏は20日のリポートで、5月は「(年限の長い債券を中心とする)押し目買い需要によって金利上昇幅は限られ、日本国債は米欧債券を大きくアウトパフォームした」と振り返った。
米連邦準備理事会(FRB)による利上げ長期化への思惑から、米長期金利は5月半ばにかけて上昇(債券価格は下落)していた。だが、その影響を比較的受けやすい国内の超長期債利回りは、上昇が限られた。リバランスの必要にかられた一部の国内投資家の債券買いが、国内長期債相場を下支えしたとみられる。
ただ、都銀や生命保険・損害保険会社なども含めた全体でみると、5月は持ち高を極端に傾ける動きは限られた。株高に伴う機械的な買いを除けば「(日銀の大規模緩和の)出口が見えない中で、大きくポジションを動かすタイミングではなかった」(国内銀行の債券担当者)との声が聞かれる。都銀による国内債の買越額(短期証券を除く)は913億円にとどまったほか、生保・損保による超長期債の買越額も2888億円と22年度の1カ月当たりの平均を下回った。
信託銀行以外の投資家の動きを抑えたのは、日銀の金融政策の先行きに不透明感が残ることが要因だ。日銀は4月に続き6月の政策決定会合でも、大規模な金融緩和策を維持した。だが、近い将来に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正に動くとの警戒感は根強く、市場で一定程度残る。海外勢は5月、中期債を中心に国内債を買い越したが、YCCの対象年限である長期国債は売り越していた。
日銀による金融政策の先行きがはっきりと見通せない中、国内勢は様子見姿勢を崩さなかった。みずほ証券で投資家動向を分析する鈴木優理恵氏は、6月以降についても新しい材料が出ない限り、同様の傾向が続くとみる。それでも季節要因が投資行動を変化させる可能性は残っているようで、「7月は海外投資家が夏休み前にショート(売り持ち)の買い戻しに動くかもしれない」と話していた。