昨年度の税収が71兆円を超え、3年連続で過去最高を更新したとの報道の一方で、先月6月末に政府税制調査会が出した答申が「給与所得者に対する増税を示唆している」として話題です。
(本稿執筆後に、岸田首相は、(親戚で財務省出身の)宮沢洋一・党税調会長と会い、給与所得者への増税を否定しましたが、筆者は、財務省主導の路線はまったく変わらないと考えています)。
増税のメニュー(一部)は次のとおりです。
- 給与所得控除が減らされる可能性
- 退職所得控除が減らされる可能性
- 通勤手当や現物支給(社宅貸与、食事支給、従業員割引)などの非課税所得が非課税でなくなる可能性
- 配偶者控除が減らされる可能性
- 生命保険料や地震保険料などが減らされる可能性
- 16~18歳の扶養控除が縮小・廃止される可能性
国民の負担増については、このほかにも、「次元の異なる少子化対策のための『こども未来戦略方針』」や、今年度の『骨太の方針』でも示唆されています。
以下、答申の本文から、重要な部分のみを短く抽出しました。傍線部が「政府税調による提案」と読めます。いずれもマイルドに書いてありますが、今後数年以内には、これらの項目のいくつかが実施に移され、「資産を形成する必要がある給与所得者」を中心に増税になるとみられます。
増税なら、これまで以上に資産運用が重要になります。
銘柄選択によって、期待リターンの高い銘柄に投資をすることも一案です。
あるいは、一貫した運用哲学の下、長きにわたってインデックスを上回るリターンを出している優秀なアクティブ・ファンドに長期投資・つみたて投資をすることもできるでしょう。
給与所得控除が減らされる可能性(政府税調2023年度答申p95-96; PDFではp109-110)
「給与所得は、給与収入の金額から、その収入金額に応じて算定される給与所得控除の額を差し引いて算出されます。
(中略)給与所得控除によりマクロ的には給与収入総額の3割程度が控除されていますが、給与所得者の必要経費と指摘される支出は給与収入の約3%程度と試算されており、主要国との比較においても全体的に高い水準となっているなど、「勤務費用の概算控除」としては相当手厚い仕組みとなっています。」(傍線は本ブログの筆者による)
退職所得控除が減らされる可能性(政府税調2023年度答申p96; PDFではp110)
「退職金は、一般に、長期間にわたる勤務の対価の後払いとしての性格とともに、退職後の生活の原資に充てられる性格を有しています。このような退職金の性格から、一時に相当額を受給するため、他の所得に比べて累進緩和の配慮が必要と考えられることを踏まえ、退職所得については、他の所得と分離して、退職金の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1を所得金額として、累進税率により課税されます(2分の1総合課税)(個人住民税は比例税率)。退職所得控除は、勤続年数 20 年までは1年につき 40 万円、勤続年数 20 年超の部分については1年につき 70 万円となっています。
(中略)現行の課税の仕組みは、勤続年数が長いほど厚く支給される退職金の支給形態を反映したものとなっていますが、近年は、支給形態や労働市場における様々な動向に応じて、税制上も対応を検討する必要が生じてきています。」(傍線は本ブログの筆者による)
通勤手当や現物支給(社宅貸与、食事支給、従業員割引)などの非課税所得が非課税でなくなる可能性(政府税調2023年度答申p102-103; PDFではp116-117)
「(前略)個人所得課税の課税対象となる「所得金額」は包括的に捉えることが原則ですが、例えば、給与所得者に支給される旅費などの実費弁償としての性格を有するものや、一定の社会保障給付など生活保障的性格を有するもののように、その性質や政策的要請により非課税や免税とされて、課税対象から除かれている所得が存在します。
これらの非課税所得等については、それぞれ制度の設けられた趣旨がありますが、本来、所得は漏れなく、包括的に捉えられるべきであることを踏まえ、経済社会の構造変化の中で非課税等とされる意義が薄れてきていると見られるものがある場合には、そのあり方について検討を加えることが必要です。
特に、政策的要請により非課税等とされている制度については、長寿命化により、そうした所得がこれまで以上に蓄積していく可能性等に鑑みれば、他の所得との公平性や中立性の観点から妥当であるかについて、政策的配慮の必要性も踏まえつつ注意深く検討する必要があります。
また、所得には、金銭による収入のみならず、現物給付、すなわち物や権利その他の経済的利益による収入も含まれますが、被用者に対する社宅の貸与、食事の支給、従業員割引など、一定の条件を満たす少額の現物給与など一定のものについては、税務執行上追求しないなどの趣旨から課税しない取扱いがされています。
<参考:主な非課税所得>
- 給与所得者の旅費や職務の性質上欠くことのできない現物給付などの実費弁償的性格に基づくもの
- 通勤手当(1ヵ月当たりの合理的な運賃等の額(上限 15 万円))のように、住宅事情等からみた場合にその全額を課税対象とすることは妥当でないとの政策的配慮に基づくもの
- 雇用保険上の失業等給付、生活保護給付、遺族基礎年金、遺族厚生年金(遺族自身の厚生年金がある場合は、遺族厚生年金がそれを上回る部分のみ)、給付型奨学金などの社会政策的配慮に基づくもの
- NISA口座内における上場株式等の譲渡益や配当等のように特定の政策目的のための措置として講じられるもの
- 家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産(貴金属や宝石、書画、骨とうなどは、1個又は1組の価額が 30 万円以下のもの)に係る譲渡所得などの担税力の考慮に基づくもの
- 当座預金の利子など少額不追求の見地によるもの」(傍線は本ブログの筆者による)
配偶者控除が減らされる可能性(政府税調2023年度答申p105-108; PDFではp119-122)
「納税者が、一定所得金額以下の配偶者を有する場合、その納税者本人の担税力の減殺を調整する趣旨から、配偶者控除及び配偶者特別控除(所得税:いずれも最高 38 万円。配偶者が 70 歳以上の場合の配偶者控除は最高 48 万円、個人住民税:いずれも最高 33 万円。配偶者が 70 歳以上の場合の配偶者控除は最高 38 万円)が設けられています。また、配偶者特別控除は、配偶者の収入に応じて控除額が逓減・消失する仕組みとなっています。
(中略)配偶者控除又は配偶者特別控除は社会的に広く適用されている状況ですが、制度創設時と比べて、「片働き世帯」は減少する一方で、「共働き世帯」、特に「夫フルタイム・妻パートの世帯」が増加しており、世帯構成の変化を反映し、その適用者は令和3(2021)年分においては約 1,339 万人と、平成23(2011)年分の約 1,584 万人と比べて減少してきています。今後とも、家族や働き方等を巡る様々な議論を踏まえ、公平・中立な税制を構築する観点から、配偶者控除・配偶者特別控除のあり方についても検討する必要があります。」(傍線は本ブログの筆者による)
生命保険料や地震保険料などが減らされる可能性(政府税調2023年度答申p110-111; PDFではp124-125)
「生命保険料控除は、一般の生命保険契約や個人年金保険契約などに支払った保険料のうち一定額を所得控除の対象とするものです。生命保険の加入率は相当の水準に達しており、また、保険にも貯蓄性、投資性の高いものが多く、その貯蓄としての機能に着目すれば、他の金融商品と同様であるとの指摘もあり、金融商品間の税負担の公平性及び中立性に照らして問題があると考えられます。
地震保険料控除は、支払った地震保険料の全額を所得控除の対象とするものです(上限5万円)。従前は、損害保険契約等に係る保険料のうち一定額を所得控除の対象とする損害保険料控除が設けられていましたが、平成 18年度税制改正において、地震災害への対応に重点化することとされ、地震保険料控除に改組されました。
(中略)上記で述べた人的控除以外の「その他の控除」の控除のあり方については、経済社会の構造変化を考慮し、制度の趣旨を踏まえつつ、「公平・中立・簡素」の観点から、検討を加えることが必要です。」(傍線は本ブログの筆者による)
16~18歳の扶養控除が縮小・廃止される可能性(政府税調2023年度答申p108; PDFではp122、こども未来戦略方針p13; PDFではp15)
このほかにも、「児童手当の支給期間延長」との相殺ですが、16~18歳の扶養控除が廃止・縮小される可能性があります。『異次元の少子化対策』(→もしそれを望むなら)は名ばかりに思えます。
まず、2023年度の政府税調の答申は、扶養控除について次のとおり説明をしています。
「自己と生計を一にする扶養親族を有する納税者に対して、その担税力の減殺を調整する趣旨から、扶養控除が設けられています。扶養控除は扶養親族の年齢によって控除額が設定されており、所得税に係る 16 歳~18 歳及び23 歳~69 歳の一般扶養控除については 38 万円(個人住民税:33 万円)、19 歳~22 歳の特定扶養控除については 63 万円(同:45 万円)、70 歳以上の老人扶養控除については 48 万円(同:38 万円)(同居老親等加算が適用される場合は 58 万円(同:45 万円))となっています。
かつては 15 歳以下の扶養親族についても扶養控除が適用されていましたが、平成 22 年度税制改正において、子ども手当の創設に伴い、15 歳以下の扶養控除は廃止されました。 」(以上のカギかっこ内は引用)
これについて、政府設置の「こども未来戦略会議」が先月中旬にまとめ、同日に閣議決定された『こども未来戦略方針』には、次の記述があります。
「児童手当については、次代を担う全てのこどもの育ちを支える基礎的な経済支援としての位置付けを明確化する。このため、所得制限を撤廃し、全員を本則給付とするとともに、支給期間について高校生年代まで延長する。
児童手当の多子加算については、こども3人以上の世帯数の割合が特に減少していることや、こども3人以上の世帯はより経済的支援の必要性が高いと考えられること等を踏まえ、第3子以降3万円とする。
これらについて、実施主体である地方自治体の事務負担も踏まえつつ、2024 年度中に実施できるよう検討する。
その際、中学生までの取扱いとのバランス等を踏まえ、高校生の扶養控除との関係をどう考えるか整理する。」(以上のカギかっこ内は引用。傍線は本ブログの筆者による)
給与所得者への増税は不可避:大増税なら資産運用が重要
今後数年以内の増税は不可避でしょう。
その主たるターゲットは給与所得者です。
言い換えれば、「資産を形成する必要がある世代」がその足をぐいぐいと引っぱられます。
これまで以上に資産運用が重要になります。
銘柄選択によって、期待リターンの高い銘柄に投資をすることも一案です。
あるいは、一貫した運用哲学の下、長きにわたってインデックスを上回るリターンを出している優秀なアクティブ・ファンドに長期投資・つみたて投資をすることもできるでしょう。
参考文献
内閣府/こども未来戦略会議(2023)『こども未来戦略方針』~ 次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて~(令和5年6月13日閣議決定)
内閣府(2023)『経済財政運営と改革の基本方針 2023 について』(令和5年6月16日閣議決定)
内閣府/税制調査会(2023)『わが国税制の現状と課題 ―令和時代の構造変化と税制のあり方―』令和5年6月30日
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