政府が「リスキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」、の三位一体の労働市場改革を推進するなか、在宅勤務の定着や男女の賃金格差解消に向けた動き、女性管理職比率・男性育児休業取得率などの有価証券報告書への開示義務化など、労働市場改革が徐々に進みつつある。このような動きを市場関係者はどう評価しているのであろうか。
7日に発表された8月のQUICK月次調査<株式>で、自身の所属部署における在宅勤務比率がどの程度かを尋ねたところ、「10%未満」との回答が32%であった一方、「50%以上」とする回答も計26%あった。特に、回答者を証券会社と投資家とに分けて集計すると、在宅勤務比率が「10%未満」とする回答は証券会社所属の回答者では46%もあったのに対し、投資家の回答者では14%しかなく、逆に投資家の38%は在宅比率が「50%以上」であることがわかった。投資家の間では、在宅勤務が現在でもかなり利用されていることが分かる。
新型コロナの分類が5類に移行して約3ヵ月が経過したが、在宅勤務比率が今後どうなるかを尋ねたところ、「現状程度の比率が続く」とする回答が60%で最も多く、「徐々に増加する」と「徐々に減少する」がそれぞれ18%と22%であった。また、在宅勤務を含めた多様な働き方が、企業組織の生産性の向上に寄与していると思うかを尋ねたところ、「大いに寄与する」「多少寄与する」との回答があわせて69%に達し、「寄与しない」「生産性は下がる」との回答(計12%)を大きく上回った。在宅勤務を含めた多様な働き方の許容は、生産性の向上、ひいては企業価値の向上に資するというのが市場参加者の実感のようである。
次に各業種における男女の賃金格差が今後どうなると思うかを尋ねたところ、「徐々に格差は縮小するが、一定の格差は残る」とする回答が55%で最も多く、続いて「時間はかかるが、いずれ格差は解消する」(33%)、「早いペースで格差は解消する」(6%)との回答が多かった。男女賃金格差の縮小ペースに関しては意見が分かれるものの、殆どの回答者は格差縮小が進むと見ていることが分かった。
また、有価証券報告書への男女賃金格差や女性管理職比率、男性育児休業取得率などの開示義務化に対しては、「投資評価に有効」とする回答も30%あった一方、「形式的な開示に留まり、あまり有効ではない」(35%)や「投資評価につながる項目とはいえない」(28%)との回答も多く、形式的な開示にとどまらず、これら人的資本関連の状況がどのように中期的な業績や企業価値の向上に貢献するのかを、企業自身が着意を持って発信していく必要性があることが示唆される。
最後に、このような労働市場改革に向けた動きが、日本の株価に中長期的にどのような影響を与えると思うかを尋ねたところ、「大きな影響はない」(50%)に続いて、「持続的な上昇の原動力となる」(44%)との回答が多く、逆に「むしろ停滞に繋がる」とする回答は5%しかなかった。労働市場改革に向けた動きが、日本株市場の持続的な成長に繋がることを期待したい。
【ペンネーム:琴徹久】
調査は8月1日~8月3日にかけて実施し、株式市場関係者132人が回答した。
QUICK月次調査は、株式・債券・外国為替の各市場参加者を対象としたアンケート調査です。1994年の株式調査の開始以来、30年近くにわたって毎月調査を実施しています。ご関心のある方はこちらからお問い合わせください。>>QUICKコーポレートサイトへ