外国為替市場では円が反転、上昇している。11月13日に対ドルで一時1ドル=151円92銭近辺へと円安が進んだが、21日には147円台前半と9月中旬以来の円高水準を付ける場面があった。
長期的に考えた場合、日本は財政政策と金融政策の相互依存関係からの脱却が難しく、円の下落のリスクは引き続き強いと考える。ただし、当面は円高方向へ振れやすい状況が続くのではないか。理由は金融政策と物価の動向にほかならない。
円が対ドルで急落したのは、昨年3月15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において米連邦準備理事会(FRB)が0.25%の利上げを実施したころからだ。日米の短期金利差が拡大したことで、円を調達してドルで運用する円キャリートレードが拡大したからだろう。
■日米短期金利差と円・ドルレート
期間:2020年1月~2023年11月21日
出所:Bloombergのデータよりピクテ・ジャパンが作成
より長い期間でみると、円の対ドル相場は日米の実質短期金利差に連動する傾向がある。
日米の消費者物価は、過去30年間、日本の消費税率の引き上げ期、リーマン・ショック期を除きほぼ全ての期間で米国の上昇率がデフレ期にあった日本を上回ってきた。もっとも、今年に入ってその差はほとんどなくなっている。
そうなると、当面は日米の名目短期金利差と実質短期金利差が概ね一致するため、純粋にファンダメンタルズからみた場合、日銀とFRBの金融政策が為替に大きく影響するだろう。
米国経済がリセッション入りする可能性は低いと考える。一時に比べれば緩和したとはいえ人手不足が続き、労働需給は逼迫しているため、消費が大きく崩れるとは思えない。ただし、FRBの利上げ局面は既に終了したものとみられ、今後は現在の水準をいつまで維持するかが焦点となりそうだ。
一方、日銀だが、2024年1~3月期にマイナス金利政策を解除する可能性が台頭した。その場合、日米の名目短期金利差縮小の観測が強まり、円キャリートレードを解消する動きが想定される。それを先取りする形で、現在の市場は円高方向に振れているのではないか。
もっとも、日銀は国債を資産として保有する一方、負債側の当座預金に積み上がった民間銀行の超過準備は548兆5170億円と、名目国内総生産(GDP)の93%に達した。
デフレ期待がインフレ期待に変化し、長短金利差の拡大で民間銀行が融資を積極化した場合、信用創造機能が回復して巨大なマネタリーベースがマネーストックを急拡大させる可能性がある。
それは通貨供給量の大幅な伸びであることから、通貨価値の下落、すなわちインフレを招くことになるのではないか。日本の消費者物価上昇率が恒常的に米国を上回る場合、購買力平価の概念から円は対ドルで下落すると考えられる。
2024年へ向け円高・ドル安となるシナリオは否定できない。しかしながら、それがかならずしも円の長期的な下落トレンドが終わったことを意味するわけではないだろう。
ピクテ・ジャパン シニア・フェロー(中京大学客員教授) 市川 眞一
クレディ・スイス証券でチーフ・ストラテジストとして活躍するかたわら、小泉内閣で構造改革特区初代評価委員、原子力国際戦略検討小委員会委員、民主党政権で事業仕分け評価者、内閣府規制・制度改革委員などを歴任。政治、政策、外交からみたマーケット分析に定評がある。2019年9月、ピクテ・ジャパン(旧ピクテ投信投資顧問)に移籍するとともに、情報提供会社のストラテジック・アソシエイツ・ジャパンを立ち上げ。中京大学客員教授も務める。