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日本株、バブルの轍を踏まない3条件【日経平均、一時最高値】

記事公開日 2024/2/22 11:30 最終更新日 2024/2/22 14:39 日本株 バブル 木村貴 日経平均 木村貴の経済の法則!

【QUICK 解説委員長 木村貴】日経平均株価が22日、バブル時の最高値(1989年12月末の3万8915円87銭)を一時上回り、歴史的な水準に達した。正念場はここからだ。日本株がバブルの轍(てつ)を踏まず、着実な値上がりを持続するためには、3つの条件がある。

株高が続くと信じたあの日

振り返れば、バブル当時、私は駆け出しの経済記者だった。最高値を付けた89年末の大納会から正月休みが明け、華やいだ雰囲気に包まれた翌90年1月4日の大発会。日経平均は、いきなり200円を超える下げを記録した。

「下げる中にも強さを感じました」。その日聞いた、忘れられない一言だ。テレビ番組の解説に出演した先輩記者が、おめでたいムードに冷水を浴びせられ、苦し紛れにそう語ったのだ。

もちろん相場は強いどころか、その後、もろくも崩れ落ちていった。けれども私に先輩記者を笑う資格はない。自分自身、日本の株式相場は強く、多少の調整はあっても上昇を続けると信じていたからだ。

そう信じた理由はいくつかある。今思えば、いずれも見込み違いだった。

低金利が招いたマネー暴走

まず、産業の未来は明るいと考えていた。当時、株式市場で熱い視線を浴びたキーワードといえば、「ウォーターフロント」だ。東京湾岸沿いの再開発への期待から、周辺に土地を保有する鉄鋼業や造船業のほか、建設・不動産業などの株が人気を集めた。しかし90年、大蔵省(現財務省)が金融機関に対する不動産融資の総量規制に乗り出し、計画は軒並み延期や中止を強いられた。商業・娯楽施設やタワーマンションが立ち並ぶ現在の湾岸地区は、当時の夢を実現しているが、バブルが行き過ぎなければ、もっと短い時間と安いコストでできたはずだ。

次に、金利は下がると思っていた。日銀は87年2月に公定歩合を当時で史上最低の2.5%に引き下げ、それを2年3カ月も続けたためマネーが暴走。狂乱地価を招いたため、89年5月に利上げに転じた。それでも株式市場では「金利はまもなく下がる」という期待が強く、年末まで株高は続いた。根拠は「米国の金利が下がるから」というもので、たしかに米金利は下がったものの、逆に日本は90年8月にかけて計5回、6.0%まで引き上げられた。この年の秋、日経平均は一時2万円割れと、最高値のほぼ半分まで下げた。

それから、個人投資家が株式市場の主役になると信じていた。その象徴がNTT株だ。87年2月に政府保有株が1株119万7000円で売り出されると、個人が殺到。160万円の初値から4月に最高値の318万円まで急騰したものの、10月のブラックマンデー(世界同時株安)とその後のバブル崩壊で暗転する。株価は90年代前半に初値の3分の1となり、「株はもうこりごり」という人が増えた。

規制撤廃で起業家後押しを

負け惜しみではないけれど、これらの誤算は、今の株式市場を考えるうえで役立つ点もあるように思う。今後、株式相場が持続して上昇する条件のヒントになりそうだ。

第1に、企業収益の裏付けとなる、産業の力強い発展が欠かせない。今、株式市場で期待を集める産業といえば、AI(人工知能)と半導体だ。大きく成長する可能性を秘めるが、残念ながら今の日本は、新しい企業が大きく羽ばたくのにふさわしい場所とはいいにくい。世界の株式時価総額ランキングで、バブル絶頂の80年代後半に上位を占めたNTTや銀行など日本勢が今では姿を消し、新しい企業は入っていないのに対し、米国はエヌビディア(創業は93年)、アマゾン・ドット・コム(94年)、アルファベット(98年)、テスラ(2003年)、メタ(04年)などバブル期には存在すらしていなかった企業が台頭し、上位を占めたのとは対照的だ。各種の規制撤廃や法人減税など、起業家が自由に力を発揮できる後押しが急務といえる。半導体産業への補助金など、企業の自立を妨げる政策はむしろ逆効果だ。

第2に、日銀は金融政策の正常化を急ぐべきだ。80年代後半、金融緩和を2年以上も続けなければ、土地・株式のバブルはあれほど過熱せず、反動の痛手も比較的小さくて済んだはずだ。しかも今回は、2013年から異次元緩和、16年からマイナス金利を続けるなど、金融緩和の期間や規模はバブル期よりもはるかに長く、大きい。利上げに転じれば、株式市場が失うマネーの量は小さくないだろうが、正常化をずるずる先延ばしすればするほど、将来払うツケは大きくなる。過度の低金利で「ゾンビ企業」をいつまでも生かしておけば、成長産業へ人材・資本の移動が進まず、「失われた30年」をさらに長引かせることにもなる。

第3に、個人投資家を大切にしなければならない。新たな少額投資非課税制度(NISA)の高い人気からうかがえるのは、個人は税の優遇に魅力を感じているということだ。株投資にかかわる税優遇をNISAだけにとどめるのではなく、前々からの課題である、配当の二重課税(税引き後利益を原資とする配当への所得課税)の解消や、株売却で生じた損失の繰越控除期間(現行3年間)の延長などを、政府はぜひ実現してほしい。新NISAでは、今は米国など世界の株式に投資する商品に人気が集中しているが、減税が実現すれば、日本株の魅力が見直されるきっかけになるだろう。

日本がバブルの経験から学んだ教訓は多かったはずだ。その教訓を生かせるかどうかが、今後の株式市場と日本経済を左右する。

著者名

木村貴(QUICK解説委員長)

日本経済新聞社で記者として主に証券・金融市場を取材した。日経QUICKニュース(NQN)、スイスのチューリヒ支局長、日経会社情報編集長、スタートアップイベント事務局などを経て、QUICK入社。2024年1月から現職。業務のかたわら、投資のプロに注目される「オーストリア学派経済学」を学ぶ。著書に「反資本主義が日本を滅ぼす」「教養としての近代経済史」ほか。


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