資産運用立国の掛け声のもと、政府は新しいNISAに続き、「金融・資産運用特区」についての政策パッケージを検討すると同時に、物価上昇の影響を緩和すべく所得税・住民税の定額減税も決定した。また、投資家もスチュワードシップコードを実践すべく、企業に対するエンゲージメントを強化しつつあり、アクティビストの活動も活発化してきている。このような動きは、日本の資本市場の活性化や企業の持続的な成長に繋がると市場関係者は見ているのであろうか。
10日に発表された6月のQUICK月次調査<株式>で、まず「金融・資産運用特区」がもたらす効果を尋ねたところ、「特区構想はさほど意味がない」とする回答が33%で最も多かった一方、「資産運用会社の新規参入やVCの要件緩和など規制緩和策に期待」(24%)、「アジア諸国に比べて高い法人税や所得税などの税制改革に取り組むべき」(21%)などの回答が続き、規制緩和や税制改革を望む声が一定程度あることが分かった。
次に、「岸田政権の所得税・住民税の定額減税」が政権の支持率上昇に繋がっていない理由を尋ねたところ、「選挙を意識した小手先のバラマキ政策だと思われている」との回答が32%で最も多く、続いて「政治資金問題で政治不信が高まっている」(25%)、「この程度の減税では物価上昇に追いつかない」(20%)との回答が多かった。冷静かつ現実的な反応といえるのかもしれない。
一方で、投資家やアセットオーナーはスチュワードシップコードも踏まえて企業に対するエンゲージメントを強化しつつあり、GPIFは「エンゲージメントの効果検証プロジェクト報告書」で、「取締役会構成・評価」について対話があった企業は、なかった企業に比べて時価総額が平均で6%大きくなった、と報告している。この分析結果に対する印象を尋ねたところ、「6%は納得できる水準」との回答が38%で最も多く、企業とのエンゲージメントに注力してきた投資家やそれを後押しするアセットオーナーの動きに一定の手ごたえを感じる市場関係者は少なくないことが分かった。ただし、「わからない」(22%)、「このテーマの対話で時価総額が増えるとは思えない」(18%)との回答も次いで多く、まだ意見は割れている、というのが実態と言える。
6月中下旬の株主総会シーズンでの重要テーマとして注目していることを尋ねると(2つまで選択可)、「持続的成長戦略」(58%)、「資本効率(ROE)改善」(56%)との回答が多く、これに「PBRの改善」(32%)、「政策保有株の縮減」(31%)が続いた。逆に、「女性役員など多様性」(6%)、「社外取締役の比率」(2%)、「気候変動対応」(2%)などの回答は少なく、形式を整えるよりも、収益および企業価値の向上に向けた具体的施策に市場関係者は注目していることが確認できる。
最後に、アクティビストの活動が日本の企業価値を高めると思うかを尋ねたところ、「高める」(15%)、「一定程度高める」(67%)を合わせると8割超となり、物言う株主を肯定的に見ている市場関係者が多いことが分かった。政府には規制緩和や税制改革を望む一方、企業価値の持続的な向上には、政府施策よりも、企業とのエンゲージメントを通じた投資家による企業のガバナンス強化が重要である、と市場関係者が考えているように感じられる。
【ペンネーム:琴徹久】
調査は6月4~6日にかけて実施し、株式市場関係者132人が回答した。
QUICK月次調査は、株式・債券・外国為替の各市場参加者を対象としたアンケート調査です。1994年の株式調査の開始以来、約30年にわたって毎月調査を実施しています。ご関心のある方はこちらからお問い合わせください。>>QUICKコーポレートサイトへ