【日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行】海外投機筋の円売り持ち高が急減している。米商品先物取引委員会(CFTC)が集計するシカゴ通貨先物市場の建玉報告によると、投機筋(非商業部門)の円の売越幅は23日時点で10万7108枚だった。前の週から4万3964枚減り、減少率は29%に達した。CTA(商品投資顧問)など一部のポジションはこれまでの円売り超から円買い超に転じたとの分析もある。
9月の米利下げ観測の強まりが円高・ドル安を誘っている。円相場は23日には1ドル=155円台半ばに上昇した。CFTCのデータは、投機筋による円の買い戻しが相場の上昇を主導していたのを映す。
円は25日に151円95銭まで買われて2カ月半ぶりの高値をつけた。米株安と日銀の追加利上げ観測も材料に進んだ24日以降の一段の円高進行を踏まえると、投機筋はさらに円売り持ち高の整理を迫られた公算が大きい。
円が151円台に上昇する局面で投機筋はどう動いていたのか。ヘッジファンド動向に詳しい野村証券の須田吉貴クロスアセット・ストラテジストは「米国のテック株の買いと円売りを組み合わせていたマクロ系ヘッジファンドは、米株安・円高で一気にポジションをリバーサル(反転)させられた」と指摘する。
さらに、相場の流れに追随し「トレンドフォロワー」と呼ばれるCTAは相場反転に応じて「前週に8000億円規模で円買い・ドル売りに動き、円の持ち高は売り越しから買い越しに転じた」と須田氏は分析する。
加えて低金利の円を調達し高金利のドルで運用する「円キャリートレード」を一気に巻き戻す投機筋も増えたとみられる。相場変動率が上昇したためだ。ゆっくりと利息収益を稼ぐキャリー取引では、相場変動が大きくなるとせっかく稼いだ利息収益が相場変動による損失で吹き飛びかねない。
円の売越幅が急減したこれまでの局面を振り返ってみる。米国のインフレ鈍化で米連邦準備理事会(FRB)の利上げ打ち止めが意識され始めた22年11月以降はどうか。CFTCのデータによると、投機筋の円の売越幅はその直前のピークからの14週間(22年10月25日~23年1月31日)かけて80%減となった。同期間に円は対ドルで14%上昇した。
FRBの利下げ転換が意識され始めた23年末は、6週間(23年11月14日~12月26日)では57%減り、その間の円の上昇率は約6%だった。
翻って現在。売越幅は直近のピーク(7月2日)から3週間での減少率は4割程度だ。1週間の減少率が大きく24日以降も円買いが続いた可能性を考慮する必要はあるが、22年末や23年末と比べると投機筋の買い戻し余地はなお残っているようにもみえる。