金融機関による投資情報の発信が多様化している。動画投稿サイトのYouTube(ユーチューブ)で存在感を示すのが松井証券(8628)だ。投資初心者でも上級者でもない、「投資初級者」に的を絞り、動画の出演者とともに金融知識を学べるストーリーが支持につながっている。
松井のチャンネル登録者数は22日時点で37万人と、楽天証券(16万人)やSBI証券(14万人)など他の証券会社が運営する公式チャンネルと比べて多さが際立っている。視聴者を集めたきっかけの1つが、2020年夏から始まったお笑いコンビのマヂカルラブリーを起用した動画シリーズ「資産運用!学べるラブリー」だ。
動画で講師役を務め、発起人でもある松井の武藤正樹コンテンツプロデューサーは「投資初心者から初級者になったレベル向けのコンテンツを埋める必要性を感じた」と動画作りの原点を振り返る。投資未経験者を取り込むハウツー情報や経験を積んだ玄人向けの専門情報の発信は多いものの、その間に位置する、投資を始めて間もない人や少しの金融知識はあるといった人向けの情報が不足していると感じたという。
難しいや敷居が高いとのイメージがつきまとう金融知識をどう伝えるか。武藤氏は「自分事として捉えられるように双方向性を意識した」と話す。自身が劇場で見て感じたマヂラブの奇抜さと真面目さに目をつけ、マヂラブやフリーアナウンサーの佐田志歩さんを生徒役に仕立てた。
動画の撮影では、生徒役の出演者に感じた疑問や理解しにくい部分を質問するように伝えている。出演者自身がわかるまで質問してもらうことで、視聴者と同じ目線の疑問が解決できる「かゆい所に手が届く」動画とも言われるようになった。
マヂラブのボケとツッコミもあいまって単なる座学とは違う雰囲気を作り、視聴者と一緒に成長できる動画として、コンスタントに再生回数が伸びているのも特徴の1つだ。佐田さんは「『投資を楽しく学べる機会』はこれまでなかったので、投資のイメージを大きく変えてくれた」と身をもって実感したという。
シーズン1の終了後にマヂラブが日本一の若手漫才師を選ぶ「M―1グランプリ」で優勝して再生回数の伸びに寄与したほか、シーズン2では個人投資家のテスタさんが投資法を語った動画も大きな関心を集めた。NISA(少額投資非課税制度)や米国株などを題材にシリーズは続き、総再生回数は4200万回を超えた。10月からは「株主総会」をテーマにシーズン14が始まっている。
動画の主な視聴者層は35~44歳で、次いで20代後半や40代後半と、資産形成層との接点づくりにつながっている。今では他人の投資取引を見たり、投資の悩みを解決したりと、違った切り口の動画シリーズも増えてきた。「みんなが見たかったものを体現したい」と話す武藤氏が仕掛ける動画配信は今後も新風を吹き込みそうだ。
(QUICK Money World 聞き手は小松めぐみ)