「NVIDIA(エヌビディア)とSherwin-Williams(シャーウィン・ウィリアムズ)がダウ工業株30種平均に加わる」。米S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズは1日、代表的な株価指数、ダウ平均の構成銘柄であるインテルに代わってエヌビディアを採用、化学大手ダウはシャーウィン・ウィリアムズに入れ替えると発表した。半導体部門と素材部門を代表する銘柄による構成を明確にしたと声明で説明。構成銘柄の変更は2月に小売部門のウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンスをアマゾン・ドット・コムに入れ替えて以来だ。8日にスタートする。
エヌビディアは6月に1株を10株にする株式分割を発表。インテルに代わり、ダウ平均に採用されるとの観測が高まっていた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、S&P500種株価指数と比べて連動するファンドがほとんどないため、ダウ構成銘柄の変更は広い意味で象徴的なものにすぎないと解説した。インテルからエヌビディアへの入れ替えは、わずか3年前は考えられなかったとしている。米経済をけん引する人工知能(AI)に乗り遅れるなど戦略が失敗したインテルに対し、エヌビディアはAIブームの顔になったと伝えた。ワシントン・ポスト紙は、AIへの高い関心とテクノロジー業界の変遷を反映しエヌビディアが採用されたと報じた。
時価総額を加重平均して指数化するS&P500種株価指数やナスダック総合株価指数と違い、ダウ平均は構成銘柄の株価の合計を除数で割って算出される。値がさ株ほど指数に与える影響は大きくなる。CNBCによると、エヌビディアの株価はダウ構成銘柄で21番目に高い。1ドルの株価変動はエヌビディア株にとっては約0.74%にすぎない(インテルにとっては4.31%)が、1ドルの動きがダウ平均にもたらすインパクトはどの銘柄も同じ。さらに、エヌビディア株のボラティリティーは高く、指数に与える影響は30銘柄中8番目に大きくなるとCNBCは解説した。
素材部門を代表する銘柄として新たに採用されたシャーウィン・ウィリアムズは1866年創業のペンキ会社。プロ向けや産業、商業、小売りの顧客向けに塗料を製造、流通、販売している。住宅をリフォームすると、シャーウィン・ウィリアムズのロゴ入りTシャツを着た作業員に高い確率で出会う。名前を聞くと「ペンキ」をイメージするほど米国人に馴染みのある会社といえる。時価総額が構成銘柄で最も小さかった化学大手ダウと入れ替わるが、投資週刊誌バロンズはシャーウィン・ウィリアムズの採用はサプライズだったと報じた。「なぜいま」と驚いた投資家は少なくない。
S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズは、S&PグローバルとCMEグループ、そしてウォール・ストリート・ジャーナルやFOXを傘下に持つニューズ・コーポレーションが共同出資する指数算出会社。ダウ平均はウォール・ストリート・ジャーナルの最初の編集長で、ダウ・ジョーンズ社の共同創業者チャールズ・ダウ氏が1896年に12銘柄で算出をはじめた。1916年に20銘柄に拡大、1928年にいまの30銘柄に増えた。
ダウ平均は「過去に尊敬された企業」の指数とされた。エヌビディアの採用により超大型テクノロジー企業への傾斜を強めたといえる。時価総額が1兆ドル(約152兆円)を超える米6社のうち、ダウ平均に採用されていないのはアルファベットとメタ・プラットフォームズの2社だけになった。米大統領選を控えた4日の米株式市場は軟調だったが、エヌビディアとシャーウィン・ウィリアムズはいずれも上昇。半面、インテルとダウは大幅に下落した。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。