【QUICK Money World 辰巳 華世】2024年のドル円相場は、一時、1ドル160円を付けるなど歴史的な円安水準を付けました。為替と株価は密接に関係しています。今回は円安で株価はどうなるのか?を考えてみたいと思います。円安メリットの関連銘柄も紹介します。
円安とは
円安とは、外国通貨に対して円の価値が低くなっている状態を指します。数字を入れて説明すると1ドル125円が1ドル160円になっていたら円安になったことになります。円安とは、1ドルを手に入れるのに125円だったのが、1ドルを手に入れるのに160円必要になることです。円から見ると、ドルと交換するために多くの円が必要となるので、ドルの価値が上がっていることになります。ドルが高くなっているということです。為替相場では、交換する2つの通貨はシーソーのような関係です。円安であれば相手の通貨であるドルは「高」となり、この場合、円安・ドル高となります。
以下の記事で、円高・円安について詳しく解説しています。
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ここ数年の円安の流れは目を見張るものがあります。2021年1月の外国為替相場で、1ドル=100円台で推移していたドル円相場は、2024年に入り一時、1ドル=160円を付けるなど歴史的な円安水準を付けました。約3年の間に約60円の円安になっています。約3年で約60円の円安となった一番大きな理由と言われているのが、日米金利差の拡大です。
新型コロナウイルス感染拡大が一つのきっかけに世界ではインフレが加速しました。これに対応するため米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)はインフレを抑えるために利上げをしてきました。急速な円安が進んだ背景には、当時、米国は利上げが続く一方で、日本はマイナス金利政策と日米の金利差が広がったことが関係しています。
ただ、24年の夏以降、日銀の利上げや米国の利下げがあり日米金利差が縮小したこともあり極端な円安進行は一服した流れもあります。
円安進行の理由について、より詳しい記事は以下をご覧ください。
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円安が進むと生活にも影響がでます。輸入品価格が上昇することで国内物価が上がり、インフレ傾向が強まります。日本は原油などエネルギーや食品の多くを輸入に頼っているので、輸入コストが増加し物価が上昇し生活コストが膨らみます。
また、円安になると、円で持っている資産の実質的な価値が減少します。海外の資産と比較した場合、日本国内の円建ての預金や投資の価値が相対的に下がり、資産の購買力も減少します。海外での支出や外国製品を購入する場合、円の購買力が下がっているので、より多くの費用がかかる可能性があります。
円安の株価への影響
グローバル化が進む今、為替動向は企業業績や外国資産に投資する投資家に大きな影響を与えます。ここでは、円安がどのように企業業績や投資家に影響を与えるのか、円安の株価への影響について見てみましょう。
輸出や輸入する企業にとって為替動向は業績に大きな影響を与えます。貿易には必ず為替が関係します。日本のモノやサービスを外国に売る輸出を考えてみましょう。例えば米国に1台1万ドルで自動車を輸出したとします。1ドル=125円の時は、125万円で売ったことになります。一方、1ドル=160円の時は、日本円だと160万円で販売したことになります。円安の1ドル160円になった時の方が日本円ベースでの受け取り額が大きくなっています。円安環境での輸出は企業業績にとってプラス要因になることが分かります。円安は輸出企業にとって企業業績の拡大に繋がるので株価への影響はポジティブになる傾向があります。
一方、輸入企業にとって円安はデメリットが多くなります。米国から1万ドルの製品を輸入するとします。1ドル=125円の時は、125万円の支払いです。1ドル=160円の時は、160万円になります。1ドル160円の円安になった時の方が日本円ベースでの支払い額が多くなります。円安環境での輸入は企業業績にとってデメリットが多いことが分かります。円安は輸入企業にとってはマイナスなので、株価への影響はネガティブになる傾向があります。
外国資産に投資する国内投資家も為替の影響を受けます。円安になると外貨預金やドル建て保険、米国株などドル建て資産の価値が増加します。外貨預金を1万ドルしたとします。1ドル=125円の時、1万ドルの外貨預金は日本円で125万円です。1ドル=160円の時、1万ドルの外貨預金は日本円で160万円になります。円安になるとドル建て資産の価値が125万円から160万円に膨らみます。円安はドル建て資産にとってはプラスの影響になります。
2023年のドル円と日経平均株価の関係を見てみましょう。ドル円相場を振り返ると、1ドル=131円台から一時、151円台まで円安が進行しました。日経平均は2万5820円から一時、3万3753円台を付けており、円安が株高に繋がった格好です。円安が輸出企業にとってプラスに働いたことや、円安で日本株が割安に見えた海外投資家の資金流入が日本株の押し上げ要因になったと考えられています。
2023年のドル円と日経平均株価の関係
ただ、すべての円安が必ずしも株高に直結するというわけではありません。たしかに円安は輸出企業の業績拡大から株価上昇要因と言われています。一方で、そもそも通貨が安い円安の状態は、デメリットもあります。
円安は輸入品のコストが上昇するため、エネルギーや食品を輸入に依存している日本にとっては生活コストの上昇となります。円安が続くと企業や消費者の負担が増し、国内の購買力の低下を招く可能性があります。輸入コスト増加によりインフレが進むと消費を圧迫し、結果的に企業収益の悪化に繋がり株安となることもあり得ます。また、通貨安は国際的な信頼が低下し、日本全体の経済力や国力が相対的に弱まる可能性を指摘する声もあります。
株式相場は、為替、金利、景気、投資家のリスクへの姿勢など、さまざまな要因によって動きます。円安がメリットとなることもありますが、行き過ぎた円安や円安が長く続くことによる弊害が出てくることもあります。その時々の環境によって、円安の評価が異なると言えます。
景気が良いときの円安は海外利益が増えることでプラスに作用しやすいですが、景気が悪化しているときは、コスト増が意識されマイナスに働くこともあります。その時々の市場を取り巻く環境によって円安による株価の反応は異なるので、必ずしも円安だと株高とは言い切れません。
円安で恩恵を受ける銘柄
円安で恩恵を受ける銘柄は、輸出産業やインバウンド関連銘柄です。円安は輸出企業の業績を拡大します。円安が進むと、訪日客の増加が見込まれインバウンド関連銘柄の期待が高まります。
輸出産業では、自動車、電機、精密機器、機械などさまざまあります。トヨタ自動車(7203)、日産自動車(7201)、本田技研工業(7267)、SUBARU(7270)、住友化学(4005)、村田製作所(6981)、日本電子(6951)、京セラ(6971)、小松製作所(6301)、ディスコ(6146)、アドバンテスト(6857)、デンソー(6902)、ファナック(6954)などたくさんあります。
円安によって恩恵を受ける銘柄【輸出産業】
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7203
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トヨタ自動車
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7201
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日産自動車
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7267
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本田技研工業
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7270
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SUBARU
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4005
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村田製作所
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6951
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日本電子
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6971
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京セラ
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6301
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小松製作所
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6146
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ディスコ
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6857
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アドバンテスト
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6902
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デンソー
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6954
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ファナック
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インバウンド関連銘柄では、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532)、三越伊勢丹ホールディングス(3099)、高島屋(8233)、オリエンタルランド(4661)、共立メンテナナス(9616)、日本航空(9201)、ANAホールディングス(9202)などがあります。
円安によって恩恵を受ける銘柄【インバウンド関連】
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7532 |
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
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3099
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三越伊勢丹ホールディングス
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8233
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高島屋
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4661
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オリエンタルランド
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9616
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共立メンテナナス
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9201
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日本航空
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9202
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ANAホールディングス
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逆に円安がデメリットとなる業種としては、輸入する原材料価格が上昇してコスト高となる業種などです。原油などエネルギーや大豆、小麦、トウモロコシなど食糧、紙やパルプや木材、輸入家具などがあります。中部電力(9502)、大阪ガス(9532)、日清製粉グループ本社(2002)、ニトリホールディングス(9843)などがあります。
円安がデメリットとなる銘柄
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9502
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中部電力
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9532
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大阪ガス
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2002
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日清製粉グループ本社
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9843
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ニトリホールディングス
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一方で、為替動向の影響を受けにくい銘柄にも注目したいところです。為替感応度が低い銘柄として、Sansan(4443)、マネーフォワード(3994)、ジャストシステム(4686)、MonotaRo(3064)、日本M&Aセンターホールディングス(2127)、翻訳センター(2483)などがあります。
為替動向の影響を受けにくい銘柄
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4443
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Sansan
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3994
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マネーフォワード
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4686
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ジャストシステム
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3064
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MonotaRo
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2127
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日本M&Aセンターホールディングス
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2483
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翻訳センター
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選挙イヤーの2024年は年後半になって日米の金融政策を取り巻く環境が大きく変りました。米国では共和党のトランプ氏が大統領選に勝利しました。関税、減税、エネルギー政策など次期政権の動向が注視されます。日本では自民・公明が衆院選で大敗し、過半数割れとなりました。日銀の金融政策の正常化に向け植田和男総裁がどのようなメッセージを発信するかに市場の関心が集まります。
まとめ
円安とは、外国通貨に対して円の価値が低くなっている状態を指します。円安は輸出企業の業績拡大から株価上昇要因と言われていますが、一方で、そもそも通貨が安い状態は、デメリットもあります。輸入コスト増加によりインフレが進むと消費を圧迫し、結果的に企業収益の悪化に繋がり株安となることもあり得ます。その時々の市場を取り巻く環境によって円安による株価の反応は異なるので、必ずしも円安だと株高とは言い切れません。
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