外国為替市場でブラジルの通貨レアルが下落している。現政権の政策の目玉である年金改革の越年が決定的とみられ、テメル大統領の求心力は一段と低下している。「中央銀行が続けてきた利下げの出口がようやく見えてきた」との声が出る一方で、政権の先行き不透明感は強まるばかりだ。レアル安シナリオの長期化が現実味を帯びてきた。
12日の外国為替市場でブラジルレアルは対ドルで1ドル=3.33ドル程度と、11月3日以来、約1カ月ぶりのレアル安水準をつけた。12月に入り、下げ基調が改めて鮮明になっている。
ブラジルでは来年10月に大統領選挙が予定されている。「テメル大統領のもとで年金改革に一定のめどをつけられるか」(第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミスト)がレアル相場を左右する喫緊の課題だ。テメル大統領は連邦議会が夏季休会に入る22日までに下院だけでも法案を通過させようと調整を続けている。来週には採決が予定されているが、賛成票が通過に必要な6割に達していない。
年金受給年齢の引き上げなど痛みを伴う改革は国民の反発が必至で、議員の間では慎重な意見が根強い。「大統領自身も年内の通過は難しく、国会が再開する来年2月以降に持ち越されると認めている」(みずほ証券投資情報部の折原豊水シニアエコノミスト)という。実質的な「白旗宣言」を受け、レアルには売り圧力がかかっている。
テメル大統領は求心力低下に歯止めがかからず、支持率は1桁台に沈んでいる。大統領選には出馬しない可能性が高い。
連立与党であるブラジル社会民主党(PSDB)も先週末に選挙で選ばれた新党首の下、連立からの離脱を模索している。与党の政権基盤が揺らぐなか、現段階でリードしているのは汚職への関与が発覚したルラ元大統領で、軍事政権復活を唱える極右候補などが続く。改革前進への期待が高まらないまま候補者選びが本格化する4月に突入すれば、政治不安からさらにレアルは売られやすくなる。
ブラジル中央銀行は日本時間7日に10会合連続の利下げに踏み切り、政策金利は年7%と史上最低金利になった。一方、利下げ幅は0.5%と、前回会合から0.25%縮小した。利下げによる景気刺激効果は少しずつ出ているもようだ。みずほ証の折原氏は「景気回復と物価安定でファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は回復しており、来年には利下げは打ち止めになる可能性がある」と予想する。
為替市場でも本来なら上向く景気に目が向いても良さそうだが、先の読めない政権への厳しい見方は強まる一方だ。来年のレアル相場は、景気回復への期待が強まる場面でも安い水準からなかなか抜け出せない裏腹な展開になるかもしれない。
【日経QUICKニュース(NQN ) 尾崎也弥】
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