日本経済新聞電子版は日本時間16日午前2時、「政府は16日にも衆参両院の議院運営委員会理事会に日銀の正副総裁など国会の同意が必要な人事案を示す」と報じた。市場で関心が高かった副総裁候補には「日銀の雨宮正佳理事と早大の若田部昌澄教授を充てる案を検討中」としている。
雨宮理事の副総裁昇格はノーサプライズだ。1月の「QUICK月次調査<外為>」では副総裁候補についてヒアリング。雨宮氏は6割超の「オッズ」で筆頭候補であり続けた。実務にたけているとされ、政策の継続性に対する安心感を与える。

新しい日銀副総裁は? 1月のQUICK月次調査<外為>
今回の正副総裁人事のポイントを三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミスト、六車治美氏は端的に「新しい日銀執行部の『リフレ度』が強まるか弱まるかは、岩田副総裁の後任次第」(2月6日付、「ポスト岩田」副総裁が左右する新執行部のリフレ度)と指摘している。
岩田氏の後任というのは日銀外から選ぶという意味だ。まず若田部氏の「オッズ」を前出の外為調査で確認すると23%だった。17年12月調査から11ポイント上昇していた。候補のテーブルに乗っていたうえに副総裁を予想する声も高まっていただけに、それほどサプライズではない。
政策スタンスについてはリフレ派でありハト派とされている。六車氏のレポートから引用を続けると以下のような姿が浮かぶ。
“若田部昌澄早稲田大学教授はインタビュー(日本経済新聞、12月27日)で19年10月の消費増税について、『14年のように増税をきっかけに消費が落ち込み、インフレ期待もしぼみかねない』とその影響を懸念している。金融政策については、『消費税増税の負の影響を吸収して、かつ物価が2%へ上がっていくほどの強力な緩和が必要』とし、『たとえば年80兆円をめどとしている日銀が保有する国債の拡大を年90兆円めどに引き上げるなど、一段と積極化する』ことが必要と述べた。イールドカーブ・コントロールの運用についても、『「0%程度」としている長期金利の誘導目標は厳密な「ペッグ(固定相場)」ではなく、金利がそれよりは上がらないようにするという「キャップ(上限)」のようにとらえればいい』と述べている”
リフレ度で岩田氏と比較した場合の評価はどうか。シティグループ証券のチーフ FX ストラテジスト、高島修氏は13日付のレポートで「岩田副総裁はもともと強力な緩和論者で、日銀入りする前は、保守的だった白川前総裁までの日銀の姿勢を強く批判してきた。(中略)リフレ論者の若田部教授の場合で初めて現状比ほぼ変わらずといったところ」と指摘していた。
ここで比較論の対象となるのが本田悦朗・駐スイス大使。QUICK月次調査による「オッズ」は17%と若田部氏よりも低いが重要な候補の1人だったことに変わりない。同氏は「ヘリコプターマネー」政策に言及するなど相当なリフレ派の1人。執行部入りするようだと、一段とリフレ度が高まるというのが市場の想定だった。本田氏と比較すると若田部氏はややマイルドなリフレ度と市場には映るか。「金融財政政策の一体発動(言わばヘリマネ政策)を訴える本田大使の場合のみ、一段のハト派政策の可能性を嗅ぎ取って円安バイアスが生じる可能性がある」(高島氏)。
ゴールドマン・サックスは15日付のリポート「日銀人事Q&A」で、本田氏と若田部氏、雨宮氏、伊藤隆敏氏(コロンビア大学教授)の4人を副総裁候補に挙げていたが、やはり本田氏が市場参加者の目に「最もハト派的と映るだろう」と指摘していた。
「若田部副総裁誕生」の可能性が高まったが、1月26日付のレポートで「(雨宮氏以外の)もう一人の副総裁には、安倍政権がリフレ派の考え方を持つ人を送り込む可能性が高いと考えており、その第1補ととして若田部昌澄・早稲田大学教授を挙げたい」としていたのがJPモルガン証券だった。
ほぼメーンシナリオ通りの布陣が固まった場合、JPモルガンは相場動向を以下のように想定していた。
【JGB金利】副総裁の組み合わせに関わらず黒田総裁が続投となれば、海外投資家内では近い将来の金融政策の微調整に対する期待感がやや後退し、一時的に金利低下圧力が高まるだろう。2018年末に関しては、10年金利目標を 0.25-0.50%に引き上げると経済調査部が予想しており、その場合20 年金利は1.0-1.3%程度まで上昇することが予想される。
【円相場】市場のセンシティビティ、期待度に鑑みると、黒田総裁続投となれば短期的に 1~2円程度の円安となることは考えられるが、影響は長続きしないだろう。年末に向けての USD/JPY 予想は引き続き 108円~115円のレンジ内の推移と予想。日銀は10年金利目標引き上げを検討する際、円高が進んでいたり、米長期金利が低下しているような環境では引き上げを実行しないと考えられるため、円相場に対する影響は総じて限定的と考えられる。
【株式】ほぼ市場の想定線であり、短期的にはニュートラル。先々、インフレ率の上昇に伴って日銀が10年金利目標の引き上げに動くとの見方が強まれば、金融株が上昇し、株式市場の牽引役になると見込まれる。メインシナリオでの日経平均の高値想定(2018年中)は26,000円。
こう見ると黒田総裁、雨宮・若田部両副総裁の人事案に大きなサプライズはない。むしろ驚きがあるとすれば、JPモルガンが先月下旬に示していたような円安とは真逆の展開が始まっている点だろう。
(QUICKデリバティブズコメント)
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