16日の東京外国為替市場で円相場は一時1ドル=105円台に上昇し、2016年11月以来、約1年3カ月ぶりの円高・ドル安水準となった。米国の財政赤字拡大への懸念や物価上昇率の高まりを受け、ドルの価値が目減りするとの思惑が広がり、ドルが円やユーロを含む主要通貨に対して下落したためだ。
政府は16日、衆参両院の議院運営委員会理事会に日銀の正副総裁の人事案を提示した。前日の海外市場で、円相場は事前報道が伝わった円安・ドル高方向に振れたが、一時的な値動きにとどまった。
円高・ドル安の背景や今後の円相場の見通し、日銀人事案の金融市場への影響などに関し、QUICK端末で16日に配信した市場関係者のコメントは以下の通り。
【2016年11月からの円・ドル相場の値動き】
■「欧米投機筋のドル売りが加速」 諸我晃・あおぞら銀行市場商品部部長
16日の東京外国為替市場で円相場が急伸し、約1年3カ月ぶりに1ドル=105円台を付けた。今回の円高・ドル安の背景にあるのは、欧米投機筋が勢いに任せて積極化しているドル売りだ。日米の経済状況の格差などを見れば、円を買う材料は乏しいのだが、欧州中央銀行(ECB)の緩和縮小観測などを根拠にユーロ買い・ドル売りを膨らませる過程で対円でもドル売りを増やしているようだ。
今回の円高・ドル安も、ユーロが対ドルで3年2カ月ぶりの高値圏まで上昇したのをきっかけに拍車がかかった。市場では、昨年にかけて積み上がった円の売り持ち高の解消がまだ進んでいない。16日も1ドル=105円台にあったストップロス(損失覚悟)の円買い注文を巻き込んで円買いに弾みがついた。
相場の流れに逆らう「逆張り」で円を売ってきた日本の外国為替証拠金(FX)投資家も、含み損が膨らみ、これ以上はドルを買いづらいだろう。円の上昇に歯止めをかけられる要因が今のところ考えられない。円は心理的節目の1ドル=105円ちょうど近辺を目指し、攻防の末に104円台へ上抜ける可能性は十分にある。
■「含み損抱えたミセスワタナベの買い戻しも」 柳沢浩・FXプライムbyGMOチーフアナリスト
外国為替市場で円高・ドル安に歯止めがかからないのは、日欧でも金融政策の「正常化」が進むとの思惑を強めた海外勢を中心に、2017年末から積み上げてきた円の売り持ち高を調整する動きを続けているからだ。国内で外為証拠金(FX)取引を手掛ける個人投資家「ミセス・ワタナベ」は、円が上昇ペースを速めた1ドル=109円台から、相場の流れに逆らう「逆張り」で果敢にドルを買っていた可能性が高い。現在の水準では含み損を抱えた状態だ。
ドル買いを増やしてきたミセスワタナベは今のところは買い持ち高を保っているが、心理的節目の1ドル=105円ちょうどを超えて円が上昇すると証拠金不足などで堪えきれなくなる人も出てくるだろう。その場合、円の買い戻しが増えると予想され、円は104円台前半まで一気に値を上げそうだ。
■「投機的な円買いで104円台も視野」 尾河真樹・ソニーフィナンシャルHD金融市場調査部長
今週までは日欧の金融政策の正常化観測の高まりや米長期金利の急上昇などの材料で円は上昇を続けてきた。ただ1ドル=107円を超えてからの円相場は、買いが買いを呼んでいる状況だ。円の上昇余地を試そうとする仕掛け的な円買い・ドル売りは続き、来週までに104円台まで円高・ドル安が進む可能性が高い。
麻生太郎財務相が15日に円相場について「特別に介入が必要なほどの水準ではない」と述べた影響もある。麻生氏はその後、発言内容を打ち消したが、円高容認の印象は残り、円は上値を試しやすくなった。
日銀の正副総裁人事案の円相場への影響は限られる。長期的には金融政策の正常化の思惑がくすぶる可能性が高い。日銀は現行の緩和策を続けるというメッセージを出す必要があるだろう。
【日経QUICKニュース(NQN) 荒木望】
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