米株式が下げ止まらない。ダウ工業株30種平均は1日に3日続落で引けた。3日間の下げ幅の合計は1100ドルと下落ピッチも速い。この日の下げはトランプ米大統領による追加関税方針の表明を売り材料にしたとの見方が一般的だった。しかし、米商務省は2月16日に鉄鋼とアルミニウムの輸入増加が安全保障上の脅威になっているとして、トランプ大統領に輸入制限の実施を提言済みだ。今回の正式表明は売りの口実にしか見えない。
日本企業と日本株への影響は改めて精査されるだろう。大和証券の亀岡裕次チーフ為替アナリストは2月22日発行のレポートで以下のように指摘していた。
「米国が関税を引き上げるとドル高に作用するという見方は疑わしい。輸入物価上昇を通じてインフレ率が押し上げられ、米金利上昇のドル高に作用するとか、輸入品が米国製品で代替され、米国内生産が増加する一方で輸入が減少し、貿易収支改善がドル高に作用するという見方は、一部の効果しか見ていない」
「むしろ、米国の輸入金額が増加して貿易収支悪化がドル安に作用したり、保護主義政策がドル安志向を連想させてドル安を招いたりする効果の方が大きいだろう。さらには、輸入物価上昇が米国内需要と米国向け輸出の減退を引き起こし、世界的な景気減速懸念を誘発してリスクオフの株安・金利低下と円高を招く可能性も高い」
「日本が報復対象国の一つとなれば、なおさら円高になりやすいが、米国が輸入品に報復関税や数量制限をかけることとなれば、ドル安と円高を招きやすいだろう」
1日のニューヨーク為替市場で円相場は再び1ドル=106円割れを試す展開を見せた。直近の高水準で推移していた米10年物国債利回りが2.80%前後に低下したことも円高・ドル安に拍車をかけたようだ。ドル安懸念がコンセンサスになれば、円高圧力の高まりが日本株の上値を抑える構図は無視できない。
とはいえ「トランプ大統領が追加関税に向けて行動する公算は大きいが、詳細は最終決定しているわけではない。来週にかけて、変更点が多くなるだろう」(ゴールドマン・サックス)との指摘もあった。米通商政策は金融市場にとって当面、不透明材料になりそうだ。
昨日の取引終了後、国内証券のトレーダーが「引け方が似てるよね」と慎重に言葉を漏らしていた。
重なって見えたのは2月28日の米株と3月1日の日本株。午後から引けにかけて売り圧力が強まり、株価指数が下値を切り下げる展開だった。
「VWAPと引けオーダーって感じかな」。
1日朝の日本市場で大手証券の手元に集まった売買注文は200億円弱の買い越しとの観測があっただけに、取引時間中に売りオーダーが出る傾向が強そう。前出のトレーダーは「大型株の弱さを見ていても世界的な株売りをする外国人の動きなのかもしれない」と述べていた。
1日の引け後、トレーダーの間で注目を集めたのがTOPIX先物3月物の立会外取引における手口だ。ゴールドマン・サックス証券(GS)が3563枚を売り越していた。前の日にも3000枚超を売り越していた。立会取引も含めた2日間の売り越し枚数は8900枚にもなった。
▼ゴールドマンのTOPIX先物3月物の売りが目立つ
合計 立会 立会外
2月28日 -4141 -991 -3150
3月1日 -4759 -1196 -3563
※単位:枚、「-」は売り越し
背後の投資家については「いま流行りのリスク・パリティ系ファンドでは」(外資系証券トレーダー)といった声もあるが、実態は不明だ。この日のGSの寄り前注文状況は買い越しだったとの見方もあるだけに、場中に海外から届いた売りオーダーの可能性を考えると外国人投資家や大手ファンドと邪推もしたくなる。
一方で国内投資家の可能性も残る。過去にGSが立会外取引でTOPIX先物の大きな手口を見せる場面ではゆうちょ銀行のオーダーとの見方が広く伝わっていた。いずれにせよGSが短期的な投機筋のオーダーを大量に受けると考え難い。内外いずれかの大手機関投資家・ファンドの動向を示しているとすれば無視はできない。
※QUICKデリバティブズコメントで配信したニュースを再編集した記事です。トレーダーやディーラー、運用者の方々へ日経平均先物・オプション、債券現物、先物を中心に旬のマーケット情報をお伝えしています。ライター独自の分析に加え、証券会社や機関投資家など運用・調査部門への独自のネットワークから情報を収集し、ご提供しています。