フリーマーケットアプリ国内最大手のメルカリ(4385)が19日に東証マザーズ市場に新規上場し、公開価格の3000円を66.7%上回る5000円の初値を付けた。初値時点の時価総額は6766億円と今年の新規株式公開(IPO)銘柄で最大。マザーズ市場のランキングでも首位に躍り出た。ひとまず投資家の期待の高さを映した格好だが、株価上昇の持続には海外事業を核とした長期の成長シナリオを市場に示す必要がある。
「米国での流通高は昨年1年で約2倍に伸びた。このトレンドを維持、拡大させていけば(米国事業の)黒字化もみえてくる」。小泉文明社長兼最高執行責任者(COO)は19日昼に出演した日経CNBC番組でこう自信を示した。同氏は市場での高評価の理由を問われ「日本(事業)の成長余地がまだかなり大きい」うえに「ペイメント(決済)と米国事業という2つの成長オプションを持っている」ためと自賛した。
メルカリの初値は一部外国証券が扱う上場前の相対取引での価格(4200円程度)を上回り、市場予想の中心付近に着地。初値後の午後には制限値幅の上限(ストップ高水準)となる公開価格比2倍の6000円まで上げた。時価総額は一時8119億円に膨らみ、ジャスダック上場の日本マクドナルドホールディングス(2702)をかわして新興企業向け市場で首位に立つ場面があった。
市場からの資金吸収額は大きいが、高い知名度を背景に投資家の買い需要は強かった。上場前の公募・売り出し株に対する応募倍率は国内外の合計で約20倍に達したもようで、公募株を入手できなかった投資家は多い。「順調な初値を付けたことで、流通市場で買おうと待ち構えていた個人の物色に弾みが付いた」(いちよし証券の宇田川克己・投資情報部課長)。
市場では「時価総額が大きいため中小型株を運用する機関投資家は組み入れざるを得ない」と堅調な値動きを予想する投資家もいる。
もっとも上場直後の熱狂が一巡すると、投資家の関心が徐々に事業戦略の進捗や業績に移るとみる市場関係者は多い。浮沈の鍵を握るのは、会社側が黒字化に意欲を示す海外事業だ。
メルカリはスマートフォン(スマホ)を使って個人が手軽に不用品を売買できる仕組みが売り物で、流通総額(売買代金)の10%を手数料として出品者から受け取る。国内事業は2016年6月期に黒字化したが、14年にサービスを始めた米国はなお赤字だ。国内で稼いだ利益を米英への投資に回している段階で、17年7月~18年3月期の連結営業損益は国内が50億円の黒字だった一方、全社では18億円の赤字だった。
同期の米国での流通総額は169億円と、日本国内(2507億円)の15分の1にとどまる。3月末までのアプリの累計ダウンロード数は日本の7100万件に対し米国は3750万件だ。上場後初の通期決算発表では業績数値以外に、海外で将来の「収穫」につながる前進がみえるかが焦点となる。
上場で調達する資金は借入金返済のほか国内外の広告宣伝費に充てる。国内でも子会社メルペイを通じてスマホ決済といった金融事業に乗り出すほか、不正出品防止に向けた監視体制の充実など費用が必要な局面は続く。18年6月期通期の売上高は前期比62%増の358億円を見込み、損益予想は開示していない。
メルカリの公募株を確保したというある海外ファンドの日本株運用担当者は「国内外の事業が安定的に成長していると確認できない限り、長期投資を前提とすることはない。初値が付いた後の高値圏で全て売ろうと思っている」と上場直前に話していた。
株式市場では、同じ生活密着型アプリを主力とするLINE(3938、1部)に比べて「メルカリのアクティブユーザー数は物足りない」との評価もある。メルカリの国内ユーザーは20~30歳代の若い層が中心。幅広い年齢層への浸透で国内の利用者を増やすことは、海外への積極投資を続ける上でも避けて通れない道だ。
売り上げを次の成長投資に注ぎ込み、目先の利益よりユーザー囲い込みを優先する経営手法は米アマゾン・ドット・コムに似る。アマゾンの株価は1997年の上場から長い間低迷したが、投資先行の効果で圧倒的な経済圏を確立したここ5年で大化けした。メルカリの投資家はどこまで辛抱強く待ってくれるだろうか。19日午後、ストップ高を付けた後に伸び悩んだ株価が投資家のかすかな気迷いを映している。
〔日経QUICKニュース(NQN) 三好理穂〕
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。