日経平均を東証株価指数(TOPIX)で割って算出する「NT倍率」が20日、QUICK端末でさかのぼれる2000年8月以降で最大となる12.87倍まで上昇した。日経平均株価に比べて東証株価指数(TOPIX)の上昇が鈍いのは、終わりの見えぬ各国の通商摩擦への懸念から投資家がある種の防御の姿勢を示していることを意味している可能性がある。貿易という観点からは影響を受けにくい銘柄へ資金を移動させたい心理が透ける。
通商摩擦が実体経済にどれほど影響を及ぼすのか現時点では算定が難しい。米中の貿易摩擦に関して日本への影響は経常利益を0.2%~0.3%前後、金額に換算すると1000億円強押し下げるとの見方がある。だが、「いずれにせよ7月以降の各国の経済指標をよく吟味する必要がある」(国内証券のストラテジスト)という慎重な意見が多い。
そんななか、20日には「今日はなぜだか海外勢が日経(平均先物)買っていました。何か米中貿易問題に進展があるんですかね?」(投資会社)とのいぶかしがる声が届いた。「NTの上昇はどこまでいくのでしょうか」(投資顧問)との声もあるが、昨日の手口からはNTロングのような傾きはみられていない。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「貿易摩擦への不安心理の裏返しが指数の強弱に繋がり、日銀によるETF買いの影響も若干あるのではないか」と推察する。
日経平均の構成銘柄として値がさ株のファーストリテイリング(9983)の構成比は8.52%であり、20日には日経平均を64円押し上げた。20日の寄与度上位はソフトバンク(9984)、東エレク(8035)、ファナック(6954)と続くが、5位にはユニー・ファミマ(8028)が顔をのぞかせる。ユニー・ファミマは日経平均の構成比では9位となる2.09%だが、前日の日経平均への上昇寄与は12円ほどあった。
加重平均で算出されるTOPIXにおいては時価総額の大きい銘柄の変動の影響がでる。いわずもがな日本の時価総額1位はトヨタ(7203)であり、時価総額上位には三菱UFJ(8306)や三井住友(8316)などの銀行株もある。時価総額上位の顔ぶれの20日の強弱をみると外需および金融売り、内需買いの方向性が垣間見える。
そこに日銀のETF買いによる浮動株の影響も及ぶというのがニッセイ基礎研究所の井出氏の考えだ。2018年3月末時点での日銀のETF買いを考慮すると、ファストリの実質的な浮動株比率は7.6%と少ない。日経平均採用銘柄では日本郵政(6178)なども実質浮動株が少ない。日銀によるETF買いの影響が、通商懸念に対する投資家の動きが顕著な指数のさらなる強弱を生み出す構図にもなり得る。
<日経平均採用銘柄の実質浮動株比率>
(※ニッセイ基礎研究所のデータより抜粋)
市場では「金融株や自動車株の持ち高を落としたいならTOPIX先物売りに対して日経225先物買いによるポジション形成もあるのではないか」(邦銀)との声もある。足元の状況として「投資家はリスクオンではなく、ニュートラルに戻した段階。リスクオフとなればNT倍率も下がりながら大きく水準を切り下げる可能性もある」(国内証券)との見方がある。(中山桂一)
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