短期金融市場の一部で「日銀は遠からずマイナス金利の幅を広げる」との観測が出ている。銀行中心にマイナス金利政策の評判はすこぶる悪いが、日銀がもし緩和政策の継続を前提に長期金利の一定の上昇を容認しようとしているのなら、金融引き締めの印象を和らげるためにマイナス金利の深掘りが選択肢に入るはず――。そんなシナリオが描かれているようだ。
日銀は金融機関の収益を過度に圧迫しないよう、マイナス金利が適用される「政策金利残高」の規模を抑えている。金融機関の全体でみて日銀へ払う手数料が膨らんでいるわけではない。ただ、プラス金利とゼロ金利の適用残高の上限値に達しない状況も続いている。当初予想されていた「金融機関はマイナス金利を適用されないよう貸し出しや余剰資金の運用を活発化させる」構図にはほど遠いと映る。
マイナス金利が適用されないよう上限いっぱいまで金融機関同士でもっと資金を融通し合えれば、マイナス金利の効果はさらに上がることになるが、どんな手段があるだろうか。市場で出ているのは長期金利の上昇とセットでマイナス金利の幅を広げるとの観測だ。
マイナス金利政策でコール取引は大きな打撃を受けたものの、短期資金を担保に債券を貸し借りするレポ市場はむしろ活性化した。かつてレポに及び腰だった地方銀行や第二地銀などの金融機関も加わり、残高も増えてきた。利回りがマイナスの短期国債でも銀行などの担保需要は根強く、レポを通じた資金調達(債券貸し出し)のニーズが消えることはない。
一方で、日銀の長短金利操作によって利回り曲線は平たん化し、銀行などの収益悪化と債券市場の機能停滞をもたらした。長期金利の引き上げ容認とマイナス金利の深掘りの「合わせ技」は理にかなっている。利上げの印象を与えずに済むなら一石二鳥だろう。
日銀の緩和修正の観測報道が出た後の週明け23日、長期金利が急上昇するのを横目に、国庫短期証券(TB)の流通市場は閑散だった。前週末までに比べると流通利回りは上昇(価格は下落)したようだが、TBを用いたレポでは逆に取引金利が低下し「債券を確保しようとする動きが強まった」(短資会社)という。同じ短期市場のなかで金利の方向性が乖離(かいり)していることからも、マイナス金利の深掘りに対する意識が垣間見える。
【日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢】
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