日銀は来夏にマイナス金利政策を解消する――。バークレイズ証券の山川哲史チーフエコノミストが11月28日付のリポートで示した予想が金融・資本市場で波紋を広げている。金融機関に評判の悪いマイナス金利政策は修正の思惑が絶えないが、海外勢に「出口政策」と受け止められれば円高加速につながりかねないだけに、政策修正には懐疑的な見方も根強い。現実味はあるのだろうか。
山川氏は今回のリポートで、19年度を通じて維持するとしていたマイナス金利政策を19年7月に解消すると予想。7月を過ぎると10月の消費増税やその後の反動による景気停滞などが見込まれるため、政策変更は難しくなるとの前提で、「変更するなら7月がデッドライン」と判断した。
7月までにまず、イールドカーブ・コントロールの方針を再び修正し、許容変動幅の拡大を通じ利回り曲線の傾きを急にして残存期間の長い国債の利回り上昇を促す。次に2%を「象徴的存在」として残したうえで徐々に物価が2%を目指すストーリーに変わりがないことを強調しつつ、現実路線にシフトするとのシナリオを描いている。
山川リポートの主張は金融機関の不満を代弁している面がある。山川氏が示す「マイナス金利政策は長期にわたって持続したときに加速度的に副作用が累積する」との指摘は、貸出先の確保や運用難にあえぐ地方銀行や信用金庫の苦境と重なる。
日銀が毎月公表している貸出約定平均金利によると1年以上の長期の「ストック貸出金利」は10月、国内銀行で0.860%と1976年の統計開始以降で最も低くなった。山川氏は「短期の政策金利がマイナスに固定される中、貸出金利の底上げがなければ金融機関の基本的な採算性はあがらない」と述べたうえで、「もしマイナス金利が解消できないまま次の景気後退期に突入し、景気刺激策の手足を縛られてしまう事態は中銀として避けたいはずだ」とも話していた。
ハードルは高い。日銀は7月31日に金融緩和継続の枠組みを強化するなかでフォワードガイダンスを導入し、「消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」と表明した。前日銀審議委員の木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは「政府が消費増税に過敏になっていることを考えれば、増税の影響が懸念されるタイミングでの政策変更は進めにくい」と話す。
さらに外為市場では降って湧いたような米利上げの打ち止め観測により、円安・ドル高のドライバーの1つだった日米金利差の拡大が止まるとの見通しが増えてきた。「対ドルではまず19年中の利上げの可能性がある通貨が買われ、円買いはまだ強くない」(国内銀行の外為ディーラー)。それだけに日銀が仮に「出口」を意識させる措置に踏み切れば円高インパクトは相当大きくなる。
QUICKが3日に発表した債券月次調査では、日銀の金融政策で19年中に実施されると思うものについて「マイナス金利の縮小・撤廃」の割合は15%だった。「10年金利の許容レンジの拡大」(47%)や「19年中は修正しない」(39%)の割合のほうが高いものの、「いくつもの環境が整えばマイナス金利撤廃は起こりうる」とのムードはそれなりに醸成されてきている。
〔日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢〕
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