中国企業による債務不履行(デフォルト)が増えている。社債のデフォルト総額は2018年に急増して過去最悪となった。今年に入っても米アップルのサプライヤー企業が不履行に陥るなど勢いは続く。先行きも社債の大量償還が控えており、中国の金融・資本市場では警戒感が強まっている。
■アップル関連の有望企業が……
アップルや独BMW、スイスのロレックス――。今月15日と21日に満期を迎えた社債の債務不履行を公表した中国の光学フィルムメーカー、康得新複合材料集団の顧客には世界的な有力企業が並ぶ。ディスプレー向け光学フィルムだけでなく、自動車向けの炭素繊維も製造する同社は中国の株式市場で「好業績の裏付けがある大型企業」を意味する「白馬株」と呼ばれる人気銘柄だった。そんな有望企業による債務不履行は投資家にショックを与えた。
中国メディアによると、今年に入ってデフォルトは康得新ですでに5社目だ。同社の資金繰りには危うさも漂っていた。大株主に並ぶ経営陣が保有する2割強の自社株のうちのほとんどを融資の担保に差し入れていたためだ。こうした証券担保ローンは、株価が下落すれば金融機関への保証金差し入れや株式の売却を迫られる。
報道では同社トップの鐘玉董事長は22日、債権者向け説明会で会社資金の一部は証券担保ローンの追加保証金になっていると説明したという。格付け大手フィッチ・レーティングスは22日のリポートで「康得新など最近の中国企業のデフォルトは、財務諸表上では現金が多いため償還できない理由を説明できない」とし、「情報開示やガバナンス(企業統治)のリスクを浮かび上がらせた」と指摘した。
■「噂」で株価が8割も下落
中国不動産の佳源国際控股は今月半ば、上場する香港市場で株価が一日で8割も急落した。一因とされるのが17日に償還を迎える社債がデフォルトするとの噂だった。会社側は慌てて「元本と利息を期限までに支払っている」と表明し、いったん株価は落ち着いた。
だが、22日に筆頭株主でもある同社の沈天晴会長の株式保有比率が約4%低下したのが明らかになると、再び株価は急落し売買停止となった。沈会長は保有する株式の一部を担保に融資を受けており、直前の株価急落で担保株式の強制売却に追い込まれたという。
中国企業の債務不履行は18年に1200億元(約2兆円)超となり、それまでの過去最悪だった16年の3倍に膨らんだ。すでに個別の事例が金融・資本市場をざわつかせている19年は、中国の景気減速が一段と進んで不履行もさらに拡大するとの見通しが広がる。
■米中摩擦などで経営環境悪化
別の格付け大手S&Pグローバルによると、19年の中国企業による社債の償還額は6兆元(約97兆円)規模で、18年を15%上回って過去最大になるという。S&Pグローバルは「金融緩和や財政拡張が大企業を支えるが、中小の財務状況の悪い企業は資金の借り換えで厳しい状況に引き続き直面する」と予想する。
DBS銀行の周洪禮シニア・エコノミストは19年について「不動産のような債務比率の高い業界にとどまらず、幅広く社債のデフォルトが増える」とみる。米中貿易摩擦の激化で輸出関連企業は人員削減を進めており、消費が急減速している。原油など商品価格の下落も資源関連企業の経営環境を厳しくする。こうした状況がデフォルトの業種的な広がりにつながるとの見立てだ。
中国経済の先行きを巡っては、3月1日を期限とする米国との貿易協議に世界の関心が集まる。投資家は米中交渉決裂のリスクに加えて、社債の大量償還により過剰債務問題が再燃し、一段と中国景気を下押しする可能性も認識しておく必要がありそうだ。
〔NQN香港=柘植康文、林千夏〕
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