長期金利は再びマイナスが定着しそうな雲行きだ。運用利回りの確保に苦労する国内機関投資家の資金は、地方債に向かい始めている。地方債利回りは国債と連動するのが普通だが、国債の利回りがマイナス圏に入ると低下について行けなくなる。この結果、国債との利回り差(スプレッド)が広がる地方債には、代替需要が集まりやすくなる。
福岡県債や愛知県債、異例の需要2倍強
長期金利の指標となる新発10年物国債は、世界的な景気減速への懸念で年末年始からマイナス利回りでの取引が目立つようになった。2月に入ると水面下に定着し始め、8日にはマイナス0.035%と1月4日以来の水準までマイナス幅が深まった。円債に限れば最も安全な資産とされる国債だが、マイナス金利となれば運用益は見込めない。行き場を失うマネーの受け皿になっているのが地方債だ。
8日に条件が決まった福岡県の10年債は、主幹事証券によると発行額の2倍強の需要が集まったという。これに先立ち6日に条件を決めた愛知県の10年債は、当初200億円程度としていた発行予定額を300億円に増加し、それでも2倍強の需要があったという。発行額の5割増し程度の需要が集まれば人気化したとされる地方債だけに、需要の強さを物語る。
人気の背景はスプレッドの拡大だ。7日に条件が決まった10年物の共同発行地方債(2月債)は、利率が0.140%と前月の0.160%から低下した。だが、それ以上に国債利回りが低下したため、スプレッドは0.16%程度と前月の0.135%程度から広がった。利率の絶対水準を重視する投資家もいるが、スプレッドの拡大を評価して買う投資家は少なくない。
「ゼロの壁」で存在感
スプレッドは信用力が低下すれば拡大するのが通常だ。暗黙の政府保証があるともいわれる地方債は現在、信用力への不安が特段高まっているわけではない。だが、地方債利回りにはマイナス圏には突入しにくいという「ゼロの壁」がある。「マイナス金利でも日銀という買い手がいる国債と違って、地方債は水面下になると買い手がいなくなる」(地方銀行の運用担当者)のがその理由だ。
日銀がマイナス金利政策に踏み切った後の2016年前半にも、長期金利のマイナス圏が続く局面があった。当時もマイナス金利に踏み込めない地方債には人気が高まり、発行額の10倍近い需要が集まったケースもあった。
日銀はその後、長期金利の誘導目標をゼロ%とし許容変動幅は現在、マイナス0.2~プラス0.2%とみられている。国債利回りのマイナス幅拡大には限りがあるとの見方が広がるなかで、今の地方債への人気は16年前半と比べれば落ち着いているといえる。
とはいえ、市場参加者からは地方債を巡って「いつもより大口の注文を入れた大手金融機関があった」「普段は見かけない取引先が出てきた」といった声も聞かれる。米中貿易摩擦の成り行きはいまだ見通せず、世界経済の鈍化への警戒感はくすぶる。米国が利上げを休止するなど世界的に金利低下圧力がかかる。国内長期金利のマイナス幅が一段と深まれば、少しでも利回りを追求する投資家の受け皿として、ゼロの壁に直面する地方債の存在感がますます大きくなりそうだ。
〔日経QUICKニュース(NQN) 片岡奈美〕
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