日経QUICKニュース(NQN)=川上宗馬
米中貿易摩擦への懸念が深まった8月、債券相場の先高観が劇的に広がっていたことがQUICKの月次調査で分かった。長期金利は9月までに2016年7月に付けた過去最低の水準であるマイナス0.300%に並ぶとの予想が増えた。米中の対立激化が世界経済の低迷と中央銀行による金融緩和政策の長期化を意識させ、国内でも長期金利の低下傾向が続くとの見方につながっている。
QUICKがまとめた8月の月次調査〈債券〉によると、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りの9月末時点での見通しを聞いたところ、マイナス0.300%を挙げる人が最も多かった。予想の中央値はマイナス0.275%で、最低ではマイナス0.350%もみられた。
■QUICK月次調査<債券>8月調査
※調査は8月27~29日に実施し、証券会社や銀行など債券市場関係者134人が回答した
前回調査(7月29日発表)では、2020年1月末時点での最低レベルとしてわずかにマイナス0.300%を予想する人がいただけだった。ただ今回は19年11月末にマイナス0.400%、20年1月にいたってはマイナス0.500%の予測も登場している。
みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「8月以降の摩擦激化で一時休戦の可能性すら遠のいた」とアンケート結果の背景を解説する。欧米景気の失速が安全資産としての債券需要を高める構図はしばらく変わらない――。そんな空気は主要先進国の国債需給を引き締めるだけでなく、多少リスクをとってでも利回りを得られる債券にお金を向かわせた。8月28日にはイタリアの長期金利が一時、初めて節目の1%を下回った。
ただでさえ「ベーシススワップ」などを通じて円を安く調達できる海外勢にとって日本国債の魅力は大きい。自国国債の投資妙味がだいぶ薄れているだけに「過去最低を付けた16年7月当時よりも日本国債の利回りは高くみえているはずだ」(野村証券の中島武信シニア金利ストラテジスト)という。
長期金利は8月29日にマイナス0.290%を付け、過去最低に迫っているが、警戒する声はあまり聞こえてこない。既に、日銀がかねて示してきた「プラスマイナス0.1%から、その倍程度」という許容変動幅を大きく超え続けている。市場では「海外マネーの需要次第でマイナス0.300%はあっという間に下回る」とのムードが醸成されてきた。
20年2月末時点での長期金利の予想中央値はマイナス0.200%で、一本調子の金利低下は見込みにくいとの予想も出てはいる。だが、みずほの上野氏は「先進国の緩和政策が手詰まりな状況は変わらず、金利が上昇しにくい環境は20年も続くだろう」と話す。
日銀は2日、市場が想定していなかった10~25年ゾーンの超長期債の国債買い入れオペ(公開市場操作)減額に踏み切ったが、債券売りでの反応は極めて穏やかだった。米中対立に端を発する世界経済の減速懸念が払拭されない限り、長期金利が過去最低のマイナス0.300%を試す展開は持続しそうだ。
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