発表が本格化しつつある中国企業の2018年12月期決算で、のれんの減損損失の計上により業績が急激に悪化するケースが目立っている。中国では15年前後に、金融緩和をテコにしたM&A(合併・買収)ブームがあった。景気の減速感が強まるなかで、その後遺症が中国企業の重荷になっている。
「3年目」業績予想の未達4割
中国・深セン市場に上場するモバイルゲーム開発の天舟文化は1月末、18年12月期の最終損益が10億6000万~11億元の赤字になったもようと発表した。1~9月期は1億8200万元の黒字だっただけに、株式市場では驚いた投資家から売りが膨らみ株価は急落した。赤字転落の要因は「のれんの減損などの損失12億~14億元を計上したため」だった。
のれんは、M&A(合併・買収)の購入額と買収先の帳簿上の純資産額の差で、ブランド価値などに相当する。のれんの減損を計上するのは天舟文化にとどまらず、中国企業に広がっている。
国営新華社によると、1月末までの発表では2518社のうち1195社が前期が減益か赤字で、このうちの270社はのれんの減損を計上したという。深センのベンチャー企業向け「創業板」市場の上場企業など、積極的な事業拡大を進めてきた企業に多い。
背景には15年前後のM&Aブームがある。当局の規制緩和や金融緩和が企業買収を後押しした。新華社によると、中国上場企業の貸借対照表(バランスシート)上ののれんは14年に合計で4000億元以下だったのに対し、18年9月末時点は1兆4500億元に膨らんだという。買収合戦の過熱で価格がつり上がったケースも多かった。
買われる側は先行き3年程度の収益成長見通しを示すケースが多く、これがのれんの計算基準になりやすい。ブームから3年たった18年、中国の景気減速が厳しくなり、当時見込んでいた収益の伸びが実現できなかったため、減損に追い込まれる企業が目立っている。中国の光大証券が深センの創業板の上場企業について集計したところ、買収後3年目以降の業績見通しを達成できなかったケースは、4割以上に達しているという。
これまでのれん減損は一括計上がルールだったが、中国の財政省は今年1月、これを毎期、一定程度ずつ償却していく方向への変更を検討していると明らかにした。
現地証券会社である群益国際控股上海代表処のアナリスト、胡嘉銘氏は「償却費が利益を圧迫し、上場廃止を迫られる企業も出てくる」と懸念する。創業板に上場しているようなベンチャー企業は、もともとの利益水準が低いため毎期の償却負担が赤字の継続につながりかねない。一方、中国では4年連続で最終赤字になれば、当局が上場廃止を命じることができるという規則がある。
会計基準の変更は過熱気味のM&Aの抑制が狙いとみられている。だが、18年12月期に計上したのれんの減損額は1月末の時点でまだ全体の1割弱とみられる。中国の景気減速が一段と深まれば損失負担はさらに膨らみ、ブームの後遺症は尾を引きそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN)香港=林千夏】
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