NQN香港=桶本典子、写真=TPG/Getty Images
新型コロナウイルスによる肺炎の猛威が世界で続くが、「震源地」中国の株式市場は意外な熱気に沸いている。金融緩和による資金流入が続いていることが最大の要因だが、個人投資家の投資意欲も旺盛さが目立つ。実は、中国で最も株式取引に意欲を増しているのは、肺炎発生の地として1カ月以上の都市封鎖に苦しむ湖北省武漢市の住民。籠城生活が新たな資金を生んでいる面もありそうだ。
新興株も大型株も売買活況
中国株市場の売買は活況だ。QUICKによると上海・深圳両市場を合わせた中国株式市場の売買代金は2月28日に1兆1200億元(約17兆円)で、8営業日連続で1兆元を上回った。「人民元ショック」直前で株高だった2015年以来の活況が続く。このうち深圳の新興企業向け「創業板」市場では、8日間の売買代金は平均1063億元と春節(旧正月)休暇前の1月23日(672億元)から6割近く増えた。大型株で構成する上証50銘柄の売買代金の平均は同期間で2割弱の増加。大型株を好む機関投資家や海外投資家に比べ中小型株投資を得意とする国内の個人の元気さが目立つ。
ネット・ゲームでは飽き足らず……
中でも投資意欲が活発とされるのは、新型コロナウイルスの震源地ともいえる武漢市民とされる。「2月9~12日に『株式口座開設』ワードを検索した大都市住民は、武漢市が中国で最多」。証券時報などの中国メディアは2月下旬、検索大手の百度(バイドゥ)のこんなデータを相次ぎ伝えた。武漢市の「口座開設」検索数は1月下旬には中国の大都市中で8位だったが、2月に入り急増し、2月下旬も北京や上海などを上回りトップクラスだったという。ある証券会社は武漢支社の口座開設が封鎖後に大きく伸びたといい、2月は同市の「投資熱」が話題になった。
武漢市は1月下旬に封鎖され、市民は買い物にも簡単に出られない籠城生活を強いられている。退屈した人々がゲームやネットに興じる様子は伝わっていたが、「消費に出られないなら投資にと考える住民が出てきてもおかしくない」(海納資産管理の周梓霖シニア・インベストメント・マネジャー)。中国紙では「事業再開のメドが立たないなか、民間企業の経営者などが手持ち資金を株式投資に振り向けている」(証券時報)との分析も聞かれる。意外なところで株式投資資金が発生している可能性がある。
「感染拡大の最悪期が過ぎ」余裕も
上海株は2日、前週末比3%高と反発。3日も堅調な動きを見せた。「売買を伴った相場上昇は続く」(香港のプルデンシャル証券の張智威アソシエイト・ディレクター)との期待は根強い。東方財富網(電子版)は2月下旬、「中国の人民元建てA株市場の時価総額は20日時点で1月23日から3兆元程度増加し、投資家1人当たりでは春節後に2万元(約30万円)弱のもうけが出た計算になる」と伝え、投資家の懐も実際に潤っているようだ。世界株安に揺れた前週末も利益確定売りが押し寄せ、相場の上下にかかわらず投資エネルギーは高い。
中国国内では新型肺炎の退院者数が入院者数を上回り始め、感染拡大は「短期的に終息に向かう」(証券会社のリポート)との見方も浮上している。「国内の最悪期は過ぎた」(海納資産管理の周氏)との期待から、籠城生活のなかでも今後の生活に意識を向ける余裕が生まれそうだ。不便と悲惨さばかりが世界に伝わる中国の個人だが、投資の力で意外に元気を保っているのかもしれない。
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