ロゴはユニクロ、商品コンセプトは無印良品、価格設定はダイソー……。知名度の高い日本ブランドを彷彿とさせるイメージ展開を武器に、中国を中心にアジアで快進撃を続けてきた雑貨店チェーンがある。「名創優品(MINISO)」だ。2013年の創業以来、急ピッチで店舗を拡大し、9月23日には米市場への上場を申請した。飛ぶ鳥を落とす勢いの名創とはどのような企業なのか。
■雑貨店としては世界最大規模
米証券取引委員会(SEC)が23日付で発表した上場目論見書によると、名創は米上場により最大1億米ドル(約105億円)を調達する見込み。投資家として中国ネットサービス大手の騰訊控股が5.4%を出資済みだ。
本社は中国・広東省で、自社ブランド「MINISO」の看板を掲げる雑貨店を20年6月末時点で合計4222店展開する。内訳は中国内で2533店、中国外で1689店。店舗展開する地域は中国本土は300都市以上、国外もアジアを中心に80カ国・地域に及ぶ。目論見書中で米調査会社フロスト&サリバンの統計として紹介しているところでは、同社の流通総額(GMV)は19年に27億米ドルと、同一ブランドでの雑貨店としては世界最大規模という。
■日本ブランドへのものまね疑惑
しかし、名創は創業以来、日本ブランドのものまね疑惑が絶えなかった。まずロゴは一見してユニクロ風。四角い赤地に白の文字で「MINISO・名創優品」と記した隣に、ご丁寧にもカタカナで「メイソウ」と同デザインのロゴが並ぶ。品ぞろえは無印良品が得意とするシンプルな多機能バックや収納用品に加え、文具や化粧品、下着などの衣類までと幅広いが、色調はアジア圏の客層を意識してかポップカラーが目に付く。価格は抑え、香港では12香港ドル(約160円)均一商品が多いダイソーと並ぶか、やや上回るくらいだ。
名創は、特に初期には「日本製100%」を謳い、中国では「山寨(ものまね)総合体」と陰口されていた。同社の中国のホームページによれば、中国人実業家の葉国富氏が日本旅行の際に着想を得て立ち上げた会社といい、デザイン部門に日本人デザイナーが名を連ねている。販売していた商品は当初から大半が中国製だったが、24日付の蘋果日報電子版によれば、同社の香港・台湾・シンガポール地区の責任者は18年に地元メディアにものまね疑惑を追及された際、「デザイン担当を日本から招いているので、シンプルやナチュラルといったコンセプトが類似した」と弁明したという。
■なぜ米上場?
そんな名創だが、米国が中国の上場企業への締め付けを強めるなかで、なぜ米国を上場先として選んだのか。中国メディアによると、同社をめぐっては昨年6月ごろに米国か香港への上場計画が浮上していたという。「グローバル企業として米国での店舗拡大も目指している」(金利豊証券の研究部執行董事の黄徳几氏)ことが、最終的に米上場の選択につながったようだ。ただ「香港市民の間では、名創が日本企業でないことは既に周知されている」(黄氏)ため、香港上場でものまね疑惑が再び大きく取り沙汰されることを嫌がった可能性もある。
近年はものまねビジネスから脱却しようと、ディズニー映画のマーベルとのコラボ商品を展開するなど、徐々に自社開発色を打ち出している。ただ、米上場の中国企業では「中国のスターバックス」とも呼ばれていたラッキンコーヒーが不正会計の発覚で上場廃止になった例がある。ラッキンの問題と名創のビジネスモデルに直接の関係はないが、米政府が中国企業の監査厳格化を求めている時期でもあり、上場がスムーズに行くか、注目される。(NQN香港 桶本典子)
<金融用語>
目論見書とは
有価証券の募集あるいは売出しにあたって、その取得の申込を勧誘する際等に投資家に交付する文書で、当該有価証券の発行者や発行する有価証券などの内容を説明したものをいう。発行者が有価証券を販売する場合は、必ずこれを作成し、投資家に交付しなければならない。 投資信託では、要点抜粋版の「交付目論見書」と詳細版の「請求目論見書」が存在し、前者は購入時に交付が義務付けられ、後者は投資家から請求があった場合に渡すこととされている。 目論見書を交付する目的は、投資家の投資判断の基準となる情報を提供することにある。一般に、目論見書には、発行者名、事業内容、資本構成、財務諸表、手取金の使途などの発行者に関する情報、発行総額、発行価格、利率、払込日、満期日などの発行する有価証券に関する情報、および引受人名、引受額、手数料などの引受に関する情報が記載されている。 届出の効力が発生する前に目論見書を使用して有価証券の取得の申込みを勧誘する場合には、内容が未確定の旨を表示して、仮目論見書を交付する。なお、投資判断の基礎資料となる目論見書の重要な事項について虚偽の表示がある、または重要な事実の表示が欠けているときは、発行者及び当該目論見書を使用して有価証券を取得させた者は、当該有価証券の募集または売出しに応じて当該有価証券を取得した者に対し、損害賠償責任を負う。ただし、目論見書の使用者が、相当な注意を用いたにもかかわらず、誤りを知ることができなかったことを証明したときはその限りではない。