証券営業の凄(すご)腕担当者に情報収集や銘柄選別の戦略を聞くシリーズの第2回はSMBC日興証券のプライベート・バンキング(PB)部の部長、中村佳代さん。会社で16人の部下を束ねながら、家では4人の子の母親でもある。入社以来リテール営業の最前線で経験を積み、現在も自ら企業経営者ら主に個人富裕層の顧客に接する。中村さんは「相場急落時こそ逃げずに顧客と信頼関係を築くのが大事」と強調する。
SMBC日興証券 中村佳代氏
なかむら・かよ 1991年和洋女子大卒、日興証券入社、95年に出産を機に一時退職するも2000年7月に復職、16年3月浦和支店長を経て17年3月に現職の上場企業経営者など富裕層を担当するプライベート・バンキング第三部長。入社以来、リテール営業を担当し、これまで社長賞10回。東京都出身
――市況が悪化したとき、顧客にどのような対応をしていますか。
「株式相場は数分で高値からストップ安まで落ちてしまうこともあるため、営業担当者には即応性も必要です。相場が悪くなっても状況の報告を怠るなど、少しでも『逃げ』の姿勢を見せるとお客様にすぐ気づかれます。株価が暴落したり金融緩和の可能性がある場合には、朝からすぐに連絡を入れ、なるべく早めに債券を押さえるなどのリスクヘッジ策を提案するようにしています」
「一方で市況が悪化したとき、割安になったから買いたいという方も結構いらっしゃいます。値崩れしたときに、どの程度の投資を希望するか個々のニーズを知っておき、それに応じてご案内できるようにしています」
顧客と一緒にイスラエルのAI企業を訪問
――リスクが高いときに投資しやすい商品にはどんなものがありますか。
「債券は基本的にデフォルトしない限り満期になれば資金が全額戻ってきます。ある程度の安全性を確保できる一方、発行体や通貨、金利の条件など様々な種類があり、市場の動きに敏感に反応する価格変動の激しい商品でもあります。市場の状況によってはチャンスをつかめる商品も多いです」
「主要な指標でもある米国債は過去の長期金利と債券価格の動きを見比べると、ある程度法則性が見えてきます。それをもとに債券価格に動きはないか確認したりしています。社債は発行企業に悪いニュースが発生すると価格が大きく動き、機関投資家などが手放すものも出てきます。よりディスカウントな条件で取得できるこうした商品に興味を持つ方もいます」
――日ごろ、環境変化のリスクに備えてどのような投資をするといいでしょうか。
「まず分散投資を勧めます。たとえば業績や配当利回りがいい優良銘柄を割安なときに確保しておいたり、為替が1ドル=100円を切ったときにドルを購入しておいたりなど、自分の水準を決めて余裕資金で投資しておくといいでしょう。何かあったときにキャッシュでほかのものを買えるというポジションを持っていてほしいです」
「リーマン・ショック時のようなひどい状況でなければ、悪い相場局面でも何かしら反比例するようにいい方向に動く商品があるものです。安全資産として持っていたものが大きなキャピタルゲインを生み出す商品に変わっていたりすることもあります。支えてくれるものがあるのとないのでは投資に対するモチベーションや安心感が違います」
――企業経営者などの顧客はどのような投資分野に関心をもっていますか。
「人工知能(AI)などの先端技術で今後、成長が見込まれる企業はどこかといった点に興味を持っている方が多いです。先日はお客様と一緒にAIの研究開発が進んでいるイスラエルの企業を訪問し、今後の戦略を聞いてきました。M&A(合併・買収)などの可能性も含め飛躍的な成長の可能性がある会社があるなら投資したいというニーズが増えており、プライベート・エクイティ(未公開株投資、PE)ファンドなどへの興味も高まっています」
「少し前にはオーストラリアなどへの投資も多かったですが、やはり米国への投資に興味を持たれている方は多いです。世界的企業が多く、規模の大きさやほかへ与える影響が違います。リスク管理として一部だけでも日本円以外の通貨への投資も必要だと思う人が増えてきており、米ドルを基に何に投資したらいいかという問い合わせが増えています」
結婚、育児など経て商品提案に「ひらめき」
――これまで4人の子供を育てながらどのように仕事と家庭を両立させましたか。
「限られた時間の中で仕事をしなければいけないので、会社の計画や相場環境、家族の用事などすべてを頭に入れたうえで、1~2週間先までのスケジュールを細かく立て、ある程度自分のやりたい仕事のイメージをつくっていました。それでも子供がいるとスケジュールは相場以上に崩れます。そういうときに周りの人が状況を理解して助けてもらえるように日ごろからいい関係をつくる努力をしてきました。チームに迷惑を掛けない最低限の仕事は必ずやり遂げつつ、自分に時間があるときには他の人の仕事を手伝うようにしました。ありがたいことにみんな協力してくれました」
「結婚して子供ができ、保険や家計を見直すなど自分の経験が増えていくと、お客様の気持ちや考えが以前よりよく理解できるようになりました。出て行くだけでなかなかたまらないお金の大切さもよくわかり、お預かりする資産に対する責任感も増しました。経験をもとに営業現場でのひらめきも増えたような気がします。たとえばお孫さんへの相続を考えた場合、何十年も先のことなので日本円よりも外貨建てで金利が高い商品の方がいいのではないかなど、それぞれの事情に応じて商品を提案できるようになりました」
「お客様を知ることが何より重要」と中村さんは話す。営業担当者には当たり前のことかもしれないが、中村さんは次元が違う。相場観から好きな食べ物まで顧客のあらゆることを把握することで、顧客に合った商品がひらめくという。顧客の好みに合う商品を作れないかと会社に掛け合ったこともあったそうだ。「縁あってお客さんと巡り会えたのだから役に立つことがあれば頑張りたい」という中村さんは、家庭では大学2年生から下は中学2年生の4人の子供の母として、毎朝4時半に起きて家事をこなし家族の要望にも応える。家族を思いやる真心で顧客と接する姿勢が、抜群の営業成績に表れているように思えた。〔日経QUICKニュース(NQN) 神宮佳江〕
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