金利指標として広く利用されているロンドンの銀行間取引金利(LIBOR)の公表が2021年末以降、止まる可能性が高まっている。LIBORは10年代に不正操作問題に巻き込まれ、監督当局である英金融行為規制機構(FCA)のベイリー長官は「公表継続は難しい」との認識を示す。国内でも貸し出しや債券など円LIBORを参照とした金融取引は多く、指標金利の移行に備える動きが広がってきた。
英金融安定理事会(FSB)がまとめた資料によると、円のLIBORを参照指標にした取引は14年3月時点で30兆ドル(19年5月14日の円相場の水準である1ドル=109円台半ばで換算すると約3286兆円)にも達する。金利スワップやシンジケートローンといった専門性が強い取引に主に用いられるが、企業向けの貸し出しや社債の発行条件などで「6カ月物の円LIBORプラス○○%」といった具合に使われるケースも多い。
もしLIBORの公表が止まるとどうなるか。関連取引の条件を決められなくなり、利息の受け渡しなどに不都合が生じるだけでなく、金利変動リスクの管理が困難になる。
日本では18年8月、日本銀行金融市場局を事務局とする「日本円金利指標に関する検討委員会」が設立された。ここが示しているLIBOR公表停止に備えるうえでのポイントは(1)新しい金融取引でLIBORに代わるどんな指標を利用していくか(2)既存のLIBORを参照した金融取引をLIBOR公表停止時にどうするか(フォールバック)――の2点だ。
(1)の代替指標については無担保コール翌日物金利に基づいた新たな指標や、既存の東京銀行間取引金利(TIBOR)が選択肢となる。(2)は契約当事者の間で、参照金利をLIBORから変更する枠組みにあらかじめ合意しなければならない。
金融仲介の基礎となる金利指標の行く末は金融機関だけではなく、金利指標を金融取引で利用する事業法人や機関投資家にも影響しそうだ。LIBORはドルやポンドなどの他の主要通貨でも関連取引が膨らんでいる。国内でもドル建ての金利スワップなどで関わりが深く、今後はそれらの通貨建てのLIBORに関しても動向を注視していく必要がありそうだ。
〔日経QUICKニュース(NQN) 矢内純一〕
=㊦で「日本円金利指標に関する検討委員会」の松浦太郎議長のインタビューを掲載
※QUICKでは22日、LIBORの公表停止に対する市場参加者の理解を深める目的のセミナーを開き、日本銀行金融市場局市場企画課の大竹弘樹課長と「日本円金利指標に関する検討委員会」の松浦議長(三菱UFJ銀行経営企画部部長)が基調講演する。LIBOR公表停止などをテーマにしたパネルディスカッションも開催される。