国内ではSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)への賛同やSDGsへの取り組みを発信する企業・団体が増え、関心が高まっている。証券業界も2017年7月にSDGsへの取り組みを決定した。これによって日本証券業協会にできた「SDGs推進室」は発足から2年たらずだが、積極的な活動を展開している。日証協のSDGsに関する具体的な取り組みについて、SDGs推進室の西村淑子室長に話を聞いた。
・SDGsに貢献する債券の呼称を「SDGs債」に統一
――日証協ではSDGsを推進するためにどのような活動をしているのか?
3つの分科会を設置し、活動しています。本業の証券業を通じての取り組みですが、SDGsの達成にあたって資金不足という課題があります。証券業界としては、資金調達で力になろうということで、資金使途を再生可能エネルギー等のグリーンプロジェクトや社会的課題の解決に限定した、グリーンボンド、ソーシャルボンドの組成販売を促進したいと考えています。その具体的施策の第一歩として、まずはこれらグリーンボンド等のSDGsに貢献する債券の呼称を「SDGs債」に統一することを決定しました。これまでは業界内でも各社でESG債、インパクトインベストメント債、サスティナブル債など呼び方がバラバラな状態でした。業界としてSDGsに貢献する債券を「SDGs債」に呼称統一することで、幅広い方のSDGs認知度向上に繋がり、ひいてはSDGsに関心がある投資未経験層などにも、投資を通じてSDGsへの貢献ができると知ってもらうことで、新たな投資家層による投資を促進できると考えています。
SDGsの採択以前からSDGs債と同等の債券は発行されていましたが、最近はSDGsへの関心の高まりもあり発行本数も増え、2018年は発行本数で40本超、発行総額は7000億円を超えました。
・「働き方改革」を支援
――女性の活躍に対する支援とはどのような内容か?
証券業界の中で、女性の活躍を推進するための活動をしています。証券業界というと男性社会というイメージが強いかと思いますが、女性の活躍をもっと進めていきたいと考えています。特に外資系や大手の証券会社はすでに自社で取り組んでいる場合もありますが、業界全体でみると業態間で「働き方改革」に対する意識や取組み状況には大きな差があります。個社によっては、そこに割ける人材や資金、時間といったリソースがなく、なかなか推進できない現状があります。また、一部にはまだ「何故女性を活躍させないといけないの?」という認識が残っている会社もあります。こういった課題への取組みはトップの強いコミットメントが必要であると考え、本協会としては証券会社の代表者を対象としたセミナーを開催しています。加えて、規模の小さい会社では、なかなか多様な働き方が身近で見られない、ロールモデルがいないというご意見もあり、証券業界における女性のネットワークを構築し、女性職員のキャリア意識の醸成を図ることを目的に、東京、名古屋、大阪で「証券Women’s Network」というセミナーを開催しました。
セミナーでは、証券会社女性職員によるパネルディスカッションを行い、外資系・大手・中小と異なる業態で、かつ働き方も「家計を支える方」、「仕事と家庭を両立する方」、「時短勤務をしている方」など、多様な働き方を知ってもらうために立場が異なる方々に登壇いただきました。その後、参加者をグループに分けて働き方に関するワークショップを行い、議論いただいた内容を発表してもらいました。参加者からは、他社の取組みが参考になった、同じ悩みを抱えている人がいるのがわかり勇気づけられた等の感想が寄せられました。皆さん初対面にもかかわらず、予定時間をオーバーするほどの盛況ぶりでした。こういった取り組みは今後も積極的に進めていきたいと思っています。
また、「証券業界の働き方事例集」を作成し、本協会のホームページで公開しています。これは、働き方改革や女性活推進の取組み事例の共有を目的としています。
・NPOのネットワーク構築、基金設置など多様な支援活動
――子供の貧困への対策は何をしているのか?
証券業界と子供の貧困はあまり結びつかないと思いますが、少子高齢化、人材不足といった問題を考えると子供への支援は重要だと考えます。まずはできることから始めようということで、内閣府の「こどものみらい古本募金」プログラムに参画しました。2018年10月4日(投資の日)から全国の証券会社の店舗1,400店以上に古本回収ボックスを置き、2019年3月末までの約半年間で寄付冊数は約5万1000冊になりました。総寄付額は115万円を超え、プログラムのなかでも証券業界は大きな存在を示しました。
そのほかにも、証券会社と子供の支援を行うNPO法人等をつなぐオンラインプラットフォームの構築を検討しています。証券会社が提供できる支援も、NPOが必要とする支援も様々なので、ひとつのプログラムに縛らず、ネットワークを構築して必要なものを聞きながら支援することを考えています。例えば株主優待で証券会社が受領した食品を子ども食堂やフードバンク等の食料を必要としているNPO法人等に提供するといった活動です。このネットワークは年内をめどに運営を開始したいと思っています。
今年はさらに、「株主優待SDGs基金」を設置し、WFP国連世界食糧計画の学校給食プログラムを支援することを決めました。
・証券業界からSDGsの意識を浸透させる
――証券会社の職員が胸元につけている円形のバッチは?
SDGsバッジの着用は、2017年9月から段階的に始めました。現在では、証券会社のすべての役職員に配布が完了しています。これを身に付けることで、一人ひとりがSDGsを理解し、自分事ととらえることを期待しています。また、証券会社の職員が着用することで、お客さまとの会話のきっかけになっているようです。
――証券業界のSDGsへの取り組みは、具体的な施策が多い。
本協会の鈴木会長の方針で、できることから具体的な行動に移すように施策を考えています。うまくいかなければやり直せばよいじゃないかというスタンスで、とにかくアクションにつなげるよう活動しています。
――SDGsについては積極的な活動をよく聞くようになった。
これまでの経済活動で持続的な経済発展は難しいという意識は広がっています。その課題解決の物差しとなるのがSDGsだと各企業が考えているのではないでしょうか。企業もこの考えを経営に取り込まなければ生き残れないという考えがあるのではないでしょうか。証券業界は引受業務などを通じて多くの企業と関わりますので、その中でSDGsについてもっと働きかけていけるとも考えています。
SDGsと聞くと寄付のイメージが強いかもしれませんが、SDGsに関する取り組みは一方的なものではなく、企業と取引先でwin-winの関係をつくるものです。SDGsに取り組むことが会社の事業も発展するという意識を、証券会社以外の企業にも広めていければと思います。