国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)を発信する企業が増えている。SDGsを全面に打ち出したCMを流したり、役員がSDGsのピンバッジをつけたりと、手法は様々だ。早くからSDGsの普及に動き始めた1社が、吉本興業だ。自社の社会的役割を分析し、得意分野で無理なくSDGsに取り組んでいた。
SDGsは2030年までに地球上の「誰一人取り残さない」ことを目指し、貧困撲滅や気候変動対策など17の目標と169の具体策で構成される。企業は自社の事業が目標の達成にどう貢献できるのかなど、ESG(環境・社会・企業統治)の観点と合わせて情報開示する場合もある。
吉本興業は政府の推進本部が主催し、SDGsの達成に取り組む企業を表彰する「ジャパンSDGsアワード」で、2017年に第1回目の特別賞に選出された。国連広報センター所長から打診を受けて始めた活動内容を、吉本興業のSDGs担当部門に聞いてみた。
■敷居を引き下げる啓発活動
2017年、吉本興業はSDGsを伝える動画コンテンツ「SDGsについて考えはじめた人々」を国連と協同で制作した。国連広報センターの根本かおる所長から「芸人さんはSDGsの敷居を下げて伝えてくれる。ぜひ国連と組んで啓発活動をしませんか」と打診があったという。得意分野で何かやってみようと、芸人たちが日常の会話の中にSDGsと笑いを盛り込んだ動画を仕上げたという。
SDGsの推進活動では「分かりやすく楽しみながら発信することを意識している」(吉本興業ホールディングスのコーポレート・コミュニケーション本部)といい、動画配信に加え、政府や企業などのSDGsに関わるイベントへの参画やキャンペーン活動にも取り組んでいる。
■EXITはリサイクル素材のバッグ
SDGsの目標を盛り込んだネタを即興で披露する「SDGs-1グランプリ」は、推進活動の中でも人気のコンテンツとなっている。10組程度のお笑い芸人が出演して優勝を競う賞レースで、2020年に開催4回目を迎え、ピン芸人でR-1チャンピオンの佐久間一行さんが見事優勝した。視聴者はお笑いを堪能しつつSDGsを楽しく学べる。2019年のM-1王者「ミルクボーイ」は、M-1で話題となったネタ「コーンフレーク」を「SDGs」に替えて漫才を披露した。「目標数が中途半端」や「目標の色がかぶっている」など、SDGsかSDGsでないかを繰り返すやりとりで、大きな笑いを勝ち取った。
2019年度のSDGs-1グランプリで優勝したのは、若手お笑いコンビ「EXIT」だ。ニューヨークブランド「レスポートサック」と共同でリサイクル素材を使ったバッグを制作した。売れ残りを出さない受注生産とし、売り上げの一部はチャリティーに寄付する。
■SDGsは事業にプラス
SDGsの普及活動は事業にもプラスになる。吉本興業は「笑い」が互いを許し、支え、正し合う力を持つと分析し、笑いによって豊かな人間関係と幸せを創り上げることが社会的役割だと自負している。SDGsの推進に「笑い」を取り込むことで役割を果たし、次のビジネスチャンスの創出にもつながる。
2020年は環境問題や人権問題への意識が高まった年となった。産業界でもSDGsへの取り組みやESGを意識した経営が加速する。ブームに乗った一過性の活動に終わらせないためには、自社の経営方針や理念と結びついたSDGsの取り組みを探し出す必要がある。
☝ワンポイント「お笑い芸人は情報発信にもってこい?」
□松井証券のYouTube、マヂカルラブリーで波に乗る
松井証券は2019年から動画共有サイト「YouTube(ユーチューブ)」で、金融商品やサービスの解説動画を配信している。20年に作成した投資初心者向けの動画では、「金融商品の話なので真面目な話を面白おかしく、分かりやすく伝えられるトーク力を重視した」(広報)とお笑い芸人を起用した。
起用したお笑いコンビ「マヂカルラブリー」が2020年のM-1王者になったこともあり、再生回数は19年の配信開始当初と比べて10倍近く跳ね上がった。マヂカルラブリーはほぼ台本なしで収録しており、「視聴者と同じ目線で疑問を持って質問する点が共感を得ているのではないか」(広報)とみる。21年もマヂカルラブリーを起用した新たな動画を配信していく予定だ。
◇吉本興業のSDGsの取り組みはこちら
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