日経QUICKニュース(NQN)=編集委員 今晶
写真=Mark Wilson/Getty Images
高速の回転売買で市場に厚みをもたらす高頻度取引「HFT」が外国為替市場で本調子を取り戻していない。8月の株安・円高をもたらした材料の消化は進み、円相場はひとまず1ドル=106円台を中心とする範囲で動きが鈍っている。変化を好まないHFTにとっては格好の取引環境に見えるが、米金融当局者の発言などが市場を再び惑わしかねないとの緊張感がまだ強いようだ。
「トランプ米大統領は通商交渉で弱腰の姿勢を示せない半面、自らの通信簿と位置付ける株価の下落は防ごうとする」(欧州系ヘッジファンドのマネジャー)。米通商代表部(USTR)が対中制裁関税「第4弾」の一部の発動を9月から12月に延ばすと表明した13日以降、市場では期待とも楽観ともつかない雰囲気が広がっている。トランプ氏が大手米金融機関や米アップルの幹部と電話で話し合っていたこともわかった。
トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)に対して短期間での1%の利下げと量的な金融緩和政策の再開も求めた。中央銀行の独立性などお構いなしに圧力をかけ続けている。米金融緩和は教科書的にはドル安要因だが、景気刺激の効果を見込んで株価が上がれば、少なくとも投資家のリスク回避(リスクオフ)志向がもたらす株安・円高の「負の連鎖」加速は起こらないだろう。HFTが好む低ボラティリティー(変動率)の状況が復活するはずだ。
問題はそうしたシナリオを描くのに最も重要な存在といえるパウエルFRB議長の肉声がまだ聞こえてこない点だ。利下げが決まった7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、パウエル氏は「長期の利下げサイクルの始まりではない」とコメント。「金利引き下げが1回だけと言ったわけではない」と付け加えたものの、ここで追加緩和を表明するとトランプ政権のプレッシャーに負けたとの印象を持たれかねないだけに「次の一手」の予測は難しい。
次の試金石となる22~24日開催の米カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)でFRB議長などの見解が伝わり、早期の大幅利下げ観測が後退したり政権とFRBとの摩擦が意識されたりすればリスクオフムードが再燃するかもしれない。コンピューター・プログラムを用いる市場参加者はおおむね「まだ無理はできない」と身構えている。
将来の為替レートを予測する通貨オプション市場で、円相場の翌日物の予想変動率はこのところ年率8.00~13.00%程度の範囲で振れが大きくなっている。円を買う権利(コール)と売る権利(プット)の価格も目まぐるしく変わり、相場観がまったく定まっていないと受け取れる。HFTが再び拡大し相場が安定していくためのハードルはまだ高い。
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