日経QUICKニュース(NQN)=矢内純一、水戸部友美
日銀が2016年にマイナス金利政策を導入して以降、銀行の本業といえる融資の低金利競争は激しさを増した。とりわけ東京都内は体力の大きいメガバンクの主戦場で、ここを拠点とする地方銀行や信用金庫は常に苦しい戦いを迫られている。
きらぼし銀行 飯村裕貴氏
いいむら・ゆうき 2012年中大理工卒、同年4月に八千代銀行(現・きらぼし銀行)に入行。個人向け融資などの担当を経て法人営業を担当。現在は池袋支店、東池袋支店、西池袋支店の営業課課長代理
2018年5月、東京都民銀行と八千代銀行、新銀行東京の3行が統合して誕生したきらぼし銀行は、中小・零細企業向けを中心に貸出業務を強化している。ともすればメガバンクの攻勢を受けかねない中で競争に打ち勝つにはどうすべきなのか。現在、法人営業を担当する飯村裕貴さんは「顧客と対話を繰り返し、個々のニーズに沿う『カスタムメード』の提案をいかにできるかが勝負」と話す。
「話したくない情報」を引き出すには
――融資営業のときに大切にしていることは何ですか。
「決算などの書類を見ただけでどんな銀行でも融資OKが出るような優良企業向けの融資よりも、いくつかの条件を組み合わせなければならないハードルの高い案件の方が気合が入りますね。ここで担当している企業の多くは中小・零細企業です。業況や資産構成などに非の打ち所がない会社は少ない。まずは話して、話さないとわからない情報を聞き出すところから仕事は始まります」
「赤字企業ならばなぜ赤字なのか。どうやって経営体質や業績を改善させていくのか。それをまず聞きます。経営者の表情などから『話したくないんだな』というのはわかるんですが、融資担当者である以上聞き出さなければならない。赤字でも融資可能だと審査部門が判断できるようにするには、まず業績に関わる部分を対話を通じてしっかりと明確にしていきます」
――どんな方法で情報を引き出していくんでしょうか。
「起業から現在にいたる経緯を聞きますね。なぜ会社を立ち上げたのか。創業理念は話しやすいので、話していくうちにかなり打ち解けてくれます」
「当然、こちらの意見をなかなか受け入れてくれない人もいます。法人営業を始めたころは『これはこうでしょう?』と意見をぶつけてもまったく聞く耳をもたれなかったことがありました。いま振り返ると、起業などの歴史をきちんと聞いて提案をする段階を踏んでいれば、もっと良い関係を構築できたとの後悔も残ります。その反省から対話方法が自然と身につきました」
キャッシュフロー項目は要チェック
――コツをつかんだなと感じたのはいつですか。
「企業の財務諸表の見方がわかってきて、こうなっている会社は悪くなる、こうなっている会社はここから改善するというのが予想できるようになりました」
「とりわけちゃんとチェックしているのはキャッシュフロー関連の項目です。損益計算書で黒字になっていても、キャッシュフローがマイナスの企業は多い。『黒字倒産』という言葉が知られているくらいですからね。これらは先輩から教わっただけでなく、場数を踏んで知ったこともたくさんあります」
――足元の景気をどう感じていますか。
「個人的には既にピークは過ぎたと考えています。日経平均株価が2万円を大きく超えてきたときは資金繰りで困っているとの話はあまり聞こえてきませんでしたが、最近は違います。東京オリンピックに向けて堅調だった建設業も、ある程度めどがたってきたせいか仕事が余っている状況じゃなくなっています」
「いまは財務に精通している先輩、お客さまの人気が高い先輩の2人を目標にしています。銀行員は一般的にはとっつきにくいと感じられている人が多いのですが、彼らを見習って話している相手の笑顔を増やしていきたいですね」
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