QUICKコメントチーム=岩切清司 (ESG担当)
「5つのETF(上場投資信託)によってついにESGブームが到来した」――。米市場のベテラン・コメンテーター、米調査会社データトレック・リサーチのニコラス・コラス氏がこう認めた。
- 「5つのETF」とは以下になる。
運用資産残高
・iShares ESG MSCI USA Leaders ETF :1676億円
・iShares ESG MSCI USA ETF :1215億円
・iShares MSCI USA ESG Select ETF :1086億円
・Xtrackers MSCI USA ESG Leaders Equity ETF:1565億円
・iShares MSCI KLD 400 Social Index Fund :1641億円
※合計:7183億円
共通項は運用資産残高(AUM)がいずれも1000億円を突破した点だ。SUSLとUSSGは今年上場したばかり。急速に存在感を高めている。
昨年以前から上場しているETFのパフォーマンスは、昨年末を100とすると9月末まで3銘柄とも119を上回った。118台にとどまったS&P500種株価指数と比較すると良好だ。さらに7~9月の短期間に絞っても、3銘柄とも上昇率はS&P500を上回った。
流れ込み始めたマネーと良好なパフォーマンスを受けコラス氏は「10~12月期も資金流入が継続するだろう。さらにESGが『グロース・バリュー』『モメンタム』といったファクターと同様のものになる」と見る。米国でこのような考え方が広がるようだと、株価の値動きも変わってくる可能性がある。ESGレーティングやスコアの高低、炭素排出量の大小といった要因を背景にしたマネーフローの存在感が強まれば、グロース・バリューといった伝統的なファクターを凌駕するステージへ構造変化が進むかもしれないためだ。ゴールドマン・サックスも似たような指摘を始めている。
世界市場で話題となっているのが環境債(グリーンボンド=GB)。GBの発行状況を集計しているクライメート・ボンズ・イニシアティブ(Climate Bonds Initiative:https://www.climatebonds.net)によると、年初から直近までに発行されたGBは1786億ドルで既に2018年の年間の発行額(1709億ドル)を上回ったという。CBIは19年の年間発行額を2500億ドルと見込んでいる。
(Climate Bonds Initiativeのサイトから)
日本でもGBの発行には勢いが出ている。8月下旬、カネカ(4118)は化学メーカーでは初となるGBを発行した。興味深いのはその後、ソニー損保や住友生命が同債券へ投資をしたと自ら表明した点だ。ソニー損保は資料の中で初めてのGB投資であったことを明らかにし「当社は、これまでも環境保全につながる活動に積極的に取組んでいますが、今後、ESG投資を通じ、資産運用面からも持続可能な社会の実現に貢献できるよう努めてまいります」とまで書き込んでいた。
カネカの株価は18年半ば以降、下落基調にあった。こじつけるつもりはないが、GB発行を公表した8月26日以降のパフォーマンスは日経平均を上回っている。株価との因果関係を明確にはできないものの、カネカという企業に対し幅広い意味で投資家を振り向かせることには成功したと言えそうだ。
こういった流れを踏まえ大和証券の大橋俊安氏は「こうした世界的なトレンドを考えると、日本でのグリーンボンドの発行も、増えることはあっても、減ることはなさそう」と話す。
日本では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資のトレンドをけん引している。株式運用ではESG指数連動型への投資規模を拡大し、20年度にはGBへの投資を本格化させる方針とも伝わった。
「GPIFがサステナブル投資に継続的なコミットメントを示したことで、他の機関投資家や発行体も追随するとみられる。今後数年にわたり、日本ではESG投資を採用する動きがさらに活発化するだろう」(UBSウェルス・マネジメント)。不透明要因に覆われるグローバルマーケットだが、日本市場も含めて着々とその構造を変えようとしている。
ESGはカネにならない、といつまでも斜に構えていては、「How dare you!(よくもまあ、そんなことが言えますね!)」と北欧の少女にこっぴどく叱られるに違いない。
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