21日午後の東京・赤坂のイベント会場は、ピンクの服や小物でコーディネートした人で溢れかえった。金融庁が個人投資家を対象に開いた「つみたてNISAフェスティバル(#つみフェス2018)」は、同庁の女性職員の発案で「something pink(何かピンクのモノ)」というドレスコードを事務局が呼びかけたからだ。
つみフェスは昨年9月に続き2回目の開催。国民の安定的な資産形成を目的に、今年から始まった積み立て型の少額投資非課税制度「つみたてNISA」の普及を促進する目玉イベントだ。前回の200人よりも定員を増やしたにも関わらず、募集からわずか4日間で250人の枠が埋まるほどの人気を集めた。
参加登録者の内訳は251人のうち、3分の2が男性で、年代別では30~40代が4分の3を占めた。来場者の8割程度が「つみたてNISA」を既に始めたか、始める手続きをしたと答えていた。
<参加登録者の内訳>
【性別】
男性:164人(65%) 女性:87人(35%)
【年代】
20代:24人(10%) 30代:105人(42%) 40代:87人(35%) 50代:30人(12%) 60歳以上:5人(2%)
【投資経験年数】
なし:36人(14%) 過去あり:5人(2%) 3年未満:90人(36%) 3年以上:120人(48%)
ピンクのドレスコードは「春」「新しいことにスタート」をイメージして、明るく優しい色を選んだようだ。金融庁は女性職員がスーツにピンクのスカーフを首に巻くスタイルで統一し、イベントに華を添えた。
■つみフェスは攻めのイベント
内閣府の村井英樹大臣政務官(経済再生・金融庁担当)による「つみフェスは役所では珍しい”攻めのイベント”」という開会宣言でイベントはスタート。投資教育家として著名なファイナンシャル・ヒーラー(ヒーラーは「癒し」の意味)の岡本和久氏の基調講話が続いた。岡本氏は「100年人生のお金との付き合い方」と題し、「将来の自分は今の自分が支える」とお金の呪縛に捕らわれずに長期に投資する生き様を丁寧に説いた。
次のセッションでは、つみたてNISA対象商品の誕生秘話を金融庁の油布志行参事官が審議の様子を振り返り、「お金を貯めてから投資しようという考えは捨てた方がいい。つみたてNISAは投資をしながら貯めるという発想に変わってほしいという考えで制度設計した」と強調した。
「はじめての投資!おススメの一冊ベスト10」発表の場に移ると、それまでとは雰囲気ががらりと変わり、たくさんの笑いに包まれた。投信ブロガーの虫とり小僧さんが進行役を務め、投信ブロガーの吊られた男さん、米国株ブロガーのたぱぞうさんと一緒に本の特徴を紹介した。
1位は投信ブロガーの水瀬ケンイチさんの著書「お金は寝かせて増やしなさい」。自らの山あり谷ありの実体験がありのまま記されているのが多くの支持を集めたようだ。水瀬さんは「投資未経験者・初心者に向けて漫画も使いながら執筆したので、1位に選ばれてたいへん光栄。投資は継続が大切というメッセージが伝わればうれしい」とのコメントを寄せた。
■「つみたてワニーサ」が公式キャラクターに
つみたてNISAの目印となる「つみたてNISA公式キャラクター」が公表された。応募総数343通の中から3作品に絞って一般投票で選出し、投票総数4515票の過半数を獲得した「つみたてワニーサ」(「積み立てはNISA」と読ませる)が採用された。
製作者は「20数年デザイナーをやってきて初めて国の役に立てたかなと思う。投資がまさに癒しになるよう、とかく堅いイメージの投資をやわらかく、かわいらしく表現した」と述べた。アートディレクターで審査委員の大山よしたか氏は「キャラクターとしての完成度が高く、背中が階段になっており一歩一歩積み立てていくイメージが素晴らしいと思う」と講評した。
金融庁はツイッターの公式アカウント「つみたてワニーサ(@Wa_nisa_FSA)」を開設。つみたてNISAや資産形成に関する情報をゆるく発信していく。
締めくくりは「有識者によるパネルディスカッション」で、経済評論家の山崎元氏、金融庁の八幡道典政策監理官らが登壇。参加者からの質問に応じる格好で、「親族がぼったくり商品を買っている場合、悟らせるにはどうしたらよいか」などにざっくばらんに答えた。
■つみフェスは「金融庁によるファン感謝デー」
「つみフェス」は官から民への「ファン感謝デー」という色彩を帯びた、ある意味格別な無料イベントだったが、概ね好評だったと言えそうだ。つみたてNISAを「続ける、続ける、そして続ける」のメッセージも伝わった。
見逃せないのは、「おススメの一冊ベスト10」にインデックス投資の古典的名著とされる「敗者のゲーム」や「ウォール街のランダムウォーカー」が入ってきた点だ。投資理論を学ぼうとする個人投資家の知的好奇心は確実に高まっている。
金融庁職員や登壇者ら
<ブロガーを中心に参加者の声>
■攻めのイベントが垣間見えた
「今回初参加。期待を上回る内容。『攻めのイベント』が垣間見えた。とはいえ金融庁は一般個人に迎合するのではなく、官僚らしく踏み込んではいけない一線を守っている点にも好感が持てた」(節税サラリーマンさん)
「データを示しながら投資のやり方やエッセンスなどを体系的にまとめた本を読むことは有意義だと思う。投資経験者が自分で役立ったと思う本を初心者に薦めるなら外れも少ないはず。イベントのプログラムに緩急があって、初心者にも経験者にもある程度楽しめるものだったのではないか。勉強会的要素と利用者(ファン)感謝デー的な要素がほどよく噛み合っていたように感じる」(虫とり小僧さん)
「個人投資家からの質問を軸としたパネルディスカッション、おススメ書籍の投票など、金融庁が個人投資家に寄り添うメッセージが伝わったのではないか。金融機関のような利害関係がない金融庁の公平な立場からの投資に関する知識や情報の発信は重要」(安房さん)
「前回のつみフェスは、ブロガーさんと金融庁職員の手作り感があったが、今回は岡本氏の講話など品格があった。とかく話が運用成績や金融商品に偏りがちな中、お金は幸せになる手段という岡本氏の見解は新鮮味があった。初心者・経験者とも満足できたフェスだった。内容は詰め込みすぎ感があり、講話と有識者ディスカッションの2部構成でも良い」(富山県在住のファイナンシャルアドバイザーの佐渡玉希氏)
「豪華ゲストで充実し、あっという間に終了。参加してよかった。時間を気にしながら短時間で終えるのはもったいなく、2倍くらいの時間が欲しいくらい。岡本氏の基調講演は聞きごたえ十分だった。金融庁主催なので、投資初心者の女性も安心して足を運べ、投資をよりリアルに身近なものに感じられるまたとない機会」(Wakabaさん)
「岡本氏の話はほんの20分ほどだったが、非常に印象に残るいいお話。『お金持ち』ではなく『幸せ持ち』に。リタイア後は、あるお金の中で最大限に幸せを高めることが大事で3000万円も5000万円も必要ない、といった話は、アーリーリタイアした自分の実感から見ても、まさにその通りという共感を覚えた」(NightWalkerさん)
■投資経験者と初心者の両方が楽しめる内容
「昨年に比べてかなり初心者向けになったような印象。著名な投信ブロガーが登壇者として参加するなど、かつてないほど金融庁と個人投資家との距離感が縮まっているのを感じた。今回は前回よりも聞きやすく、単なる座学ではなく事前のアンケートや投票を通しての参加型のイベントになっていたのが良かった」(nantesさん)
「物事には流行と、いつの時代も変わらぬ不易があり、投資は時代によって移ろう面もあるが、今回の投票でランクインした本は古いものも新しいものも時代を超えて読まれるのだろう。本当に良い本が選ばれた。自分が投資を始めた20年前には投資は『いかがわしい』というイメージが強かったが、投資が日常を豊かにする経済活動と認識され始めているのには、一個人投資家として隔世の感がある。ブログを中心にこの流れをサポートしていきたい」(たぱぞうさん)
「投資の話が聞きたくて北海道から駆け付けた。投資というと『金儲け』のイメージが強いかもしれないが、投資も社会貢献のひとつという岡本氏の話が印象に残った。つみたてNISAを使って積立投資の良さに気づける人が増えるといいなと思う」(札幌市在住のなるたくさん)
「豪華な出演者たちの講演やパネルディスカッションが面白そうだったので参加。つみたてNISAや一般NISAに対する金融庁の方の思いや本音にふれることができ、たいへん勉強になった。全国から集まった投資家さんたちと会うことができ、楽しく過ごせた」(水瀬ケンイチさん)
「今後、会社の内外で勉強会を実施するときのネタを見つけたく参加。インデックス投資は手軽に始められるが『つまらない』と思う時もある。多くの方と交流できると、つみたて投資を続けるモチベーションになるし、暴落が起きても安心して続けられる。今回学んだことや『気づき』を踏まえて、勉強会資料をアップデートし勉強会を開催していきたい」(ツイッターで発信しているTaku<金融系SEの投資のつぶやき>さん)
「2月からつみたてNISAを始めたばかりで、長く続けるコツを知りたいと思って参加。大勢の参加者を見て、長期投資を志す同志がこれだけいるというのは大きな励み。あっという間の3時間。ネットや本での投資勉強にはない、リアルイベントの良さを体感でき、本当に楽しかった。岡本氏の『資産形成の目標額を決める必要はなく、できる範囲で節約して資産形成に回す。資産活用期は手元にあるお金で幸福感を最大化すれば良い』という話は目から鱗だった」(青井ノボルさん)
「昨年のつみフェスは制度開始に向けての制度紹介や個人からの税制改正要望などやや投資経験者向きの印象だったが、今回はつみたてNISA普及に視点を置き、公式キャラクター募集など投資経験者、初心者両方が楽しめる内容だった。金融庁職員は全国各地でのつみップ(意見交換会)開催にも力を入れており、普及への本気度を感じる。国の政策イベントに一個人として参加できるのは幸せ」(リバモさん)
「いい意味で『お役所らしくない、お祭り』に近いイベントだった。幕間に流れるBGMの選曲も若い人を意識しているのがさりげなく伝わってきた。時間が短く感じられ、もっとじっくり話を聞いてみたかった。山崎氏が『他人任せの投資はダメ』と主張していたが、みんながみんな、最初から完全な自己判断で投資できるとは限らないのでは。その意味ではつみたてNISAでのバランスファンドは投資の入口としていいように感じる」(セロンさん)
■投資しながら貯めようは名言
「油布参事官の『投資しながら貯めよう』は名言。キャッチフレーズとして使うのにもピッタリ。商品の信託報酬上限基準が金融庁側からの提案だったのを初めて知り、びっくり。金融庁の本気度が表れていると感じた。ブロガー3氏による『おススメ一冊ベスト10』はリハーサルなしでこれだけの軽快トークとは凄い。イベントの様子を全国津々浦々にネットで配信するのを検討してはどうか」(毛流麦花さん)
「最初に岡本氏がお金、投資の本質的な話をしたのは良かった。お金というと汚いイメージがあるが、本来お金は感謝のしるし。時間軸・空間軸を広げることなどなど、SNSでも講演内容に好意的なコメントが多かった。今後は、これまで投資をしたことのない人につみたてNISAをどう訴求していけるかが課題。フェスティバルや各地の説明会(つみっプなど)で地道に啓蒙活動を続けていくことには意味があると思う」(フィナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子氏)
「ツイッターの実況中継で参加者の声がリアルタイムに見られることや、ブロガー3氏による本の紹介がくだけていて面白く印象的だった。つみたてNISAの制度を学ぶために参加したが、専門家のパネルディスカッションや制度の秘話を聞くことができ、充実した時間となった(きんゆう女子。 コミュニティマネージャーの金子圭都氏)
「昨年に引き続き、創意工夫された楽しく有意義なイベントだった。参加したかったけれど、すでに申し込みがいっぱいになっていたという声をたくさん聞いた。来年はさらに参加人数を増やして開催して欲しい」(総合司会を務めたファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏)
(QUICK資産運用研究所 高瀬浩、小松めぐみ)
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