企業によるESG(環境・社会・企業統治)重視の経営が熱を帯びてきている。大きなきっかけは、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が3つのESG指数に連動した日本株運用を2017年から始めたことだ。運用資産額が160兆円を超える世界最大規模の機関投資家は、他の投資家の運用に与える影響も大きく、投資対象となる企業にとっても軽視できない。
■「企業経営とESGは一心同体」「真価の評価はアクティブ運用」
「いまや企業経営とESGは一心同体」。日本電産の永安正洋IR・CSR推進部長は、6月下旬に都内で開かれたESG投資セミナーのパネルディスカッションに登壇し、「GPIFのESG指数の評価ポイントである環境負荷管理や労働者の人権擁護、企業統治の確立などに取り組むのは会社として当たり前の最低ライン」と強調した。
永安氏は「ESG全般を考慮に入れたGPIFの総合型ESG指数の採用銘柄選定基準は企業のリスク管理面の評価が軸」と分析し、「企業がグローバルな社会的課題に対しどのように取り組み、ステークホルダーと呼ぶ利害関係者すべて(顧客、取引先、従業員、株主、地域コミュニティ、地球環境)が満足するよう貢献していくのかという将来を含めたESG活動の真価を評価するのは、(指数との連動を目指す)パッシブ運用ではなく、(運用担当者の采配で投資する)アクティブ運用の役割」と説いた。
GPIFのESG指数の採用銘柄候補について「現状では時価総額の大きい500銘柄に限定されており、東証1部に上場する約2000社のうち、4分の3はESG指数に採用される可能性がない」とも指摘した。
■「本業で社会的課題を解決するのがESG」「キーワードはインクルージョン」
従来のCSR(企業の社会的責任)やSRI(社会的責任投資)が企業の社会的な貢献活動を評価する側面が強かったのに対して、ESGはあくまで本業そのもので社会的課題の解決をするという考え方が浸透してきた。製造業だけにとどまらず、小売業・金融業も同じだ。
一緒に登壇した丸井グループの加藤浩嗣IR部長兼経営企画・ESG推進担当は「国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の中で示されている『誰も置き去りにしないで、すべての人が幸せを感じる』という意味の『インクルージョン(包摂)』に着目し、インクルージョンを事業経営のキーワードにしている」と説明した。
実際、同社が発行した統合報告書(共創経営レポート2017)の中では「インクルージョン」「インクルーシブ」という言葉が何度も繰り返し出てくる。具体例として、日本人女性の足のサイズをほぼ100%カバーするようサイズを揃えた履き心地の良い靴の販売や、既存の金融機関が対応しきれていない若者向けの金融サービスなどを挙げ、「インクルージョンを本業で展開し、消費者需要を掘り起こすのにつなげている」という。
■欧州では自主的な「責任投資」が「義務」化への流れも
高崎経済大学の水口剛教授はパネルディスカッションに先立って「世界のESG投資の動向と今後の展望」というテーマで基調講演。「世界では官民でESG投資を推進する動きが目立ってきている」と指摘し、「日本では例えば、環境省が主催し、金融業界首脳を交えてESG金融のあり方などを議論している『ESG金融懇談会』が近々、提言をまとめる見通しになっている」と加えた。
欧州でのESG投資はこれまで機関投資家による自主的な「責任投資」に委ねられていたが、機関投資家によるESGの考慮や、投資アドバイザーが顧客にESGを重視するか否かを確認するのを「法制として義務化」しようとする動きも出てきたという。
今回のセミナーを主催した三井住友アセットマネジメントは、ESG評価を基にしたアクティブ型投資信託「三井住友・日本株式ESGファンド」(79312182)の運用を2月から始めた。信託報酬は税込み年率1.1664%、販売手数料の上限は税込みで3.24%。
運用の特色として、ESGに主体的に取り組む企業は中長期的には企業価値が高まっていくことを見込んで銘柄を発掘し、アナリストの独自分析で、今後ESG評価が高くなると期待される日本企業に投資する。6月末まで4カ月間のリターンはマイナス0.9%で、配当込みTOPIX(東証株価指数)のマイナス1%をわずかながら上回った。
セミナーは投信の販売会社を中心に120人近くが参加した。ESGに取り組んでいる企業の声を直接聞くことで、企業の経営や意識が大きく変わりつつあることを実感したようだ。
(QUICK資産運用研究所 高瀬浩)